この記事では、建設業で外国人労働者を受け入れる際に必須となる在留資格(ビザ)や外国人採用のメリット、注意点を紹介しています。在留資格の知識がないまま受け入れ、大きな問題に繋がってしまうケースもあるので、外国人雇用をご検討中の企業様はぜひご覧ください。
建設業で外国人労働者を受け入れるには?
まず前提として、建設業での外国人労働者の数はどのくらいいるのか、見ていきましょう。以下のグラフは、厚生労働省公表のデータを参照に作成しておりますので、ご覧ください。
建設業においては、2016年以降コロナの期間を除いて、右肩上がりで外国人労働者の数が増加していることが伺えます。
建設業での外国人労働者数の増加背景としては、同業界の技術者数の減少及び高齢化が推察されます。
以下の画像は、国土交通省の資料からの抜粋となりますが、建設業の就業者数は平成9年のピーク時685万人から令和3年には482万人まで減少していることが伺えます。同時に、就業者の3割以上が55歳以上、29歳以下の就業者は1割未満という、典型的な高齢化が産業全体として進行している状況です。
こうした背景から、日本人労働者のみならず、外国人労働者の受け入れに取り組まれる企業が増加していることが想像されます。
では、建設業では、具体的にどのように外国人労働者を採用していくことができるのでしょうか?
建設業での人手不足の現状については、「【建設業の人手不足】2025年問題や原因、対応策まで徹底解説!」でも解説していますので、ぜひご覧ください。
まずは「在留資格」を確認する
まず、具体的な採用方法を説明する前に、外国人を採用する際に避けては通れない「在留資格」について簡単にご紹介いたします。
在留資格とは、外国人が日本に在留した上で、何かしらの活動を行うために必要となる資格です。
出入国管理及び難民認定法(入管法)によって規定されており、2024年12月現在において29種類の在留資格が存在しています。
結論、建設業で受け入れできる外国人は、以下の在留資格を有する外国人が中心になってきます。
- 技術・人文知識・国際業務
- 就労制限のない「身分系の在留資格」
- アルバイト可能な「資格外活動許可」保持者
- 技能
- 技能実習
- 特定技能
面接に来た外国人材が、どの在留資格を持っているのかは、「在留カード」をチェックすることで確認可能です。在留カードは、日本で中長期で滞在している外国人は必ず常時携帯しており、いわゆる「身分証」に匹敵するくらい重要なものとなっております(不携帯の場合は、外国人本人が罰則・補導の対象となってしまいます)。
表面に「在留資格」と記載されている欄がありますので、ご確認ください。また、資格外活動許可については、裏面の資格外活動許可欄にて確認可能です。
在留資格を確認せずに選考を進め、自社の業務を担わせてしまっているケースがよくありますが、必ず確認するようにしましょう。
なお、在留資格については、「在留資格ってなに?ビザとの違いや取得方法、29種類まとめて解説!」で詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください!
不法就労助長罪に注意する
では、なぜ「在留資格」の確認を怠ってはいけないのでしょうか?
結論、「不法就労助長罪」に問われてしまう可能性があるためです。
不法就労助長罪は、働けない外国人を雇用してしまったり、在留資格で認められていない業務に従事させていると見なされた際に、受け入れ企業の経営者が罰せられてしまいます。これは、知らなかったとしても「身分確認を怠っていた」と見なされ、罰則の対象とされます。
現在「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」の量刑が科されますが、2025年6月には「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」へと厳罰化される予定となっていますので、外国人労働者の受け入れをご検討している企業様は要注意です。
不法就労助長罪については「【不法就労助長罪とは】成立要件や防止方法などをわかりやすく解説」でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
建設業で受け入れ可能な「在留資格」は?
それでは、建設業で受け入れ可能な在留資格について、個別に見ていきましょう。
技術・人文知識・国際業務
建設業界で外国人を正社員として雇用する際の主要な在留資格である「技術・人文知識・国際業務」は、大学等で学んだ専門知識と実務の関連性が重視される在留資格です。
建設分野では、工学部や建築学科の卒業生を現場監督やCADオペレーターとして採用するのが一般的です。ただし、この在留資格ではホワイトカラー業務に限定され、足場組み立てや左官作業などの現場作業には従事できないという重要な制限があります。これは、高度な専門知識を活かす職種という在留資格の性質によるものです。
一方で、在留期間の更新が認められる限り継続して就労が可能なため、長期的な人材活用が可能という利点があります。
企業側は業務範囲の制限を理解した上で、専門性を活かせるポジションでの採用を検討する必要があります。
技術・人文知識・国際業務については「技術・人文知識・国際業務とは?技人国ビザの職種一覧や許可/不許可事例も!」の記事もぜひ参照ください!
就労制限のない「身分系の在留資格」
身分系在留資格(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)は、就労に関する制限がなく、日本人と同様に自由に働くことができる在留資格です。
特に永住者は在留期間が無制限で更新手続きが不要なため、企業側の管理負担が少なく、安定的な雇用が可能です。また、職種や勤務時間の制限がないため、正社員やアルバイト、パートタイムなど、様々な雇用形態での採用が可能です。さらに、在留資格に関する手続きや制限を気にする必要がないため、採用から雇用管理まで、日本人従業員と同じように扱うことができるのが大きな特徴です。
このため、長期的な人材戦略を立てやすく、企業にとっては活用しやすい在留資格といえます。
アルバイト可能な「資格外活動許可」
本来就労ができない外国人の方は、「資格外活動許可」を得ることで週28時間以内の就労が可能となります。アルバイトやパートさんのようなイメージになります。
外国人をアルバイトとして雇用する際に対象となる主な在留資格には、「留学」と「家族滞在」があります。
留学は学業を目的とした在留資格のため、そもそも就労が認められておりません。ただ、資格外活動許可を得れば、28時間就労が可能になりますが、この時間制限は全てのアルバイト先での合計時間が対象となるため、他社でのアルバイト時間も考慮する必要があります。
一方、家族滞在は日本で働く外国人の配偶者や子供が取得する在留資格で、同じく資格外活動許可により週28時間以内の就労が認められています。
いずれの在留資格も就労時間に制限があるため、アルバイトでの雇用が適切です。
技能
在留資格「技能」は、外国特有の建築または土木に関する熟練技能を持つ外国人材に与えられる在留資格です。
対象となる技能は日本にない特殊なものに限定され、ゴシック、ロマネスク、バロック方式、中国式、韓国式などの建築・土木技能や、枠組壁工法、輸入石材による直接貼り付け工法などが該当します。
取得には5~10年の実務経験が必要で、在留期間は5年、3年、1年、3カ月のいずれかとなり、申請者の希望や雇用企業の状況などを考慮して出入国在留管理庁が決定します。
通常の建設技能とは異なる特殊な技能が求められるため、一般的な建設現場での活用は限定的である点に注意が必要です。
在留資格「技能」については、「【在留資格「技能」とは】概要や取得要件、必要な手続きなどを解説」についても併せてご確認ください!
技能実習
技能実習は、開発途上国への技能移転を目的とした在留資格で、建設分野では22職種33作業に限定して受け入れが認められています。
対象となる主な職種には、建築板金、建具製作、建築大工、型枠施工、鉄筋施工、とび、石材施工、タイル張り、左官、配管、内装仕上げ施工など、建設現場で必要とされる基本的な技能が含まれています。
在留期間は最長5年という制限があり、単独では長期雇用が困難ですが、特定技能への在留資格変更により、より長期的な雇用が可能となります。
なお、技能実習生は各職種で定められた作業にのみ従事でき、それ以外の業務には携わることができないため、受け入れ時には対象作業と実際の業務内容の整合性を十分確認する必要があります。加えて、2027年には技能実習制度は廃止され、育成就労へ移行される予定となっていますので、今後の採用については要検討が必要です。
技能実習制度については「技能実習生って問題だらけ?制度や受け入れ方法について徹底解説!」も併せてご確認ください!
特定技能
特定技能は2019年4月に人手不足解消を目的として創設された在留資格で、建設分野では土木、建築、ライフライン・設備の3区分に分類されています。
土木区分では型枠施工や建設機械施工など8作業、建築区分では左官や内装仕上げなど13作業、ライフライン・設備区分では電気通信や配管など4作業が認められており、いずれも指導者の指導・監督のもとで作業を行います。
在留期間は特定技能1号では最長5年ですが、2号に移行すれば期間制限なく就労が可能となるため、技術・人文知識・国際業務と同様に長期的な人材活用が可能です。
この制度は建設現場での実務作業に従事できる点で技術・人文知識・国際業務とは異なり、現場の人手不足に直接対応できる制度といえます。
特定技能制度については、「在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いも含めてわかりやすく解説!」の記事も参照ください!
結局、建設業ではどの「在留資格」で採用すべき?
建設業で採用可能な在留資格を複数見てきましたが、正社員で雇用する前提では、オフィスワーク系の業務を任せるなら「技術・人文知識・国際業務」、現場作業をメインでお任せするなら「技能実習」か「特定技能」の在留資格保持者を採用すべきでしょう。
在留資格「技能」については、特殊な建築技法が求められる場合に限定されるため、一般的な建設会社では雇用が難しいでしょう。一方、「身分系在留資格」は、就労制限がないが故に、他業界と候補者を奪い合う形になります。高待遇な条件を提示する等、募集する際の工夫が必要になってくるため、採用ハードルは高いと言えます。
そのため、冒頭の「任せる業務内容」に応じて、募集する在留資格及び外国人のターゲティングをすべきでしょう。
繰り返しになりますが、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格保持者に現場作業をやらせていたり、「技能実習・特定技能」保持者に営業や経理等のオフィスワークを任せていると、不法就労助長罪に該当してきますので、くれぐれもご注意ください。
また、現場作業中心だった場合に、技能実習と特定技能で悩まれるケースがあるかと思いますが、ぜひ以下のYouTubeでの解説動画をご覧いただければと思います。
建設業で就労を希望する外国人材の採用方法は?
採用方法についても、前提として採用ルートが在留資格ごとに制限されている点は注意する必要があります。
「技能実習」の場合、すでに日本に在住する外国人を採用することができず、海外現地の日本語学校(送り出し機関)で学んでいる方が採用ターゲットになってきます。そのため、必ず海外現地の日本語学校やエージェントを介在する必要があり、費用や手続きが煩雑になる傾向があります。
一方、「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」の場合、海外現地在住者の採用はもちろん、すでに日本国内で就労されている方や、卒業直近の留学生等を新卒として雇用することが可能です。
具体的な採用方法としては、「技術・人文知識・国際業務」の場合は、indeed等の日本人も活用いている求人媒体に募集を出したり、もしくは、外国人高度人材専門の求人媒体や紹介エージェントがございますので、活用を検討してみるのが良いでしょう。
「技能実習」や「特定技能」については、ほぼ人材エージェント(監理団体や送り出し機関、登録支援機関)を活用する形になるのが一般的です。
採用プロセスでは、応募者との面接に加えて、業務内容に応じた適切な在留資格の確認が不可欠であり、採用決定後は、書面での雇用契約締結と出入国在留管理庁への在留資格申請が必要になるケースが大半です。入社後に関しては、ハローワークへの「外国人雇用状況の届出」を実施し、さらに、入国後は住居確保、銀行口座開設、住民登録、携帯電話契約など、生活立ち上げに関する各種手続きのサポートが求められます。
スムーズな就労開始のためには、企業側による入念な受け入れ体制の準備と、きめ細かな支援が重要となります。加えて、入社までのステップは各在留資格ごとに異なり、複雑であるため、特に初めての外国人雇用の場合は、人材エージェントや行政書士等に相談された方が良いでしょう。
建設業で外国人労働者を受け入れるメリットは?
では、外国人労働者を採用する場合、企業側には具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?
人手不足の解消
まず、人手不足が解消されるというのが、大きなメリットとして挙げられるでしょう。
日本人の場合、特に若年層で建設業界を志望される方は、冒頭の統計データからもかなり少ないことが伺えます。ただ、外国人労働者の中には、建設業で就労したいという方が多くいらっしゃり、募集条件や手法にもよりますが、日本人と比較すると、早期に応募者を獲得することが可能でしょう。
円安の状況とはいえ、特に東南アジアを中心とする地域とはまだまだ経済格差があり、高い報酬や将来帰国した際の技術を身につけたいという、意欲高い人材がいるのも事実です。
そのため、外国人労働者の採用に取り組むことで、早期の人手不足解消に繋がりうると言えるでしょう。
社内の活性化
外国人労働者を建設現場に受け入れることは、単なる人材確保以上の価値をもたらします。
特に注目すべきは職場の活性化と若返り効果です。多くの外国人材は20代の若手であり、その新鮮な視点と柔軟な発想は、高齢化が進む建設現場に新たな息吹を吹き込みます。
また、家族のために懸命に働く彼らの姿勢や情熱は、日本人従業員に新たな刺激を与え、世代を超えた相互学習の機会を創出します。
異なる文化や価値観を持つ若い世代との協働を通じて、多文化共生への理解が深まり、多様性を受容する組織文化が育まれ、このような世代間・文化間の交流は、急速に変化する現代の働き方に対応する上で重要な組織力の向上にもつながり、企業の持続的な発展を支える重要な要素となります。
業績の向上
外国人材の採用は、人手不足の解消や職場活性化にとどまらず、企業の業績向上にも大きく寄与します。ボストンコンサルティンググループの調査によれば、多様な人材の存在は企業のイノベーション能力を高め、財務業績の向上につながることが実証されています。
特に建設業界において、外国人材の持つ異なる文化的背景や経験、技術的知見は、従来の方法論に新たな視点をもたらし、工法や施工プロセスの革新を促進する可能性があります。また、人手不足の解消により工期遵守や品質向上が実現し、顧客満足度の向上にもつながります。
さらに、若手外国人材の活力と既存社員の経験が融合することで、より効率的な作業プロセスが確立され、生産性向上にも貢献します。
このように、外国人材の活用は、直接的な労働力の補完だけでなく、企業の競争力強化と持続的な成長をもたらす施策となりえるでしょう。
一方、建設業で外国人労働者を採用する際の問題・注意点も
外国人労働者の採用が企業にメリットをもたらす一方で、問題や注意点もございますので、確認しておきましょう。
労働条件の整備(最低賃金、同一労働・同一賃金等)
まず、募集を出したところで、結局は募集条件がよくないと、外国人であっても誰も応募してこないという事態に陥る可能性はあります。
都内の建設事業者様では、月給30万円以上の募集で過去弊社に外国人材の募集をいただいたケースもある通り、建設業界の人手不足状況を加味して、賃金水準は上昇傾向にあります。とりわけ、最低賃金水準での募集に関しては、全く見向きもされないでしょう。
また、日本人従業員と外国人従業員の間で賃金格差を設けてはならず、同一労働・同一賃金の遵守は必須と言えるでしょう。特に、技能実習や特定技能の場合は、入社した後に関しても、3ヶ月ごとに賃金台帳を出入国在留管理庁へ提出する必要があり、不当に差別的な扱いがなされていた場合は指導や処罰が下されることもあります。
労災の発生には要注意
建設業は労働災害のリスクが高い業界であり、外国人労働者の安全確保には特別な配慮が必要となります。
安全管理の要となるのは、言語の壁を超えたコミュニケーションです。安全教育マニュアルの多言語化や、視覚的な要素(図表・イラスト)を活用した分かりやすい注意喚起、丁寧な実地訓練の実施などが重要な施策となります。
また、労働災害発生時に備え、外国語対応可能な医療機関とのネットワーク構築など、緊急時の体制整備も欠かせません。外国人材の安全を守ることは、企業の社会的責任であると同時に、安定した事業運営の基盤ともなるでしょう。
日本語でのコミュニケーション
建設現場では、常に納期との戦いかつ危険な作業を伴うケースもある中、日本語でのコミュニケーションを原因にトラブルになる会社は多数存在します。
建設業界特有の独特な言い回しや膨大な工具名(工具の名前も会社によって異なることも)、様々な作業音を発する現場内における早口でのコミュニケーションは、特に来日したばかりの外国人材に取っては大きな障壁となるでしょう。
そのため、先ほどの労災の箇所と同様に、業務マニュアルの整備を徹底し、日本人社員側がゆっくり・平易な日本語で外国人材とコミュニケーションをするということをしっかりと意識する必要があるでしょう。
まとめ
今回は建設業において外国人労働者を雇用する際に、対象となる在留資格や採用における基本的な流れなどを中心にお話してきましたが、いかがでしたか。
当社は外国人労働者に特化した人材紹介サービスを提供しており、本文でもご紹介した「技術・人文知識・国際業務」や「特定技能」といった外国人労働者の採用を支援させていただいております。
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