外国人雇用を検討している企業にとって、在留資格の選択は非常に重要な判断となります。特に「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」は、どちらも就労を目的とした在留資格でありながら、その性質や適用条件が大きく異なります。
本記事では、これら2つの在留資格の違いを詳しく解説し、企業が適切な選択をするための判断材料を提供します。また、関連する技能実習制度との違いや、技人国ビザでの単純労働の可否についても詳しく説明いたします。
在留資格「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の基本概要
まず最初に、在留資格「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務」の概要について理解しておきましょう。
技術・人文知識・国際業務(技人国)とは何か
技術・人文知識・国際業務(技人国)は、日本の在留資格の中でも最も一般的な就労ビザの一つです。この在留資格は、大学等で学んだ専門知識や技術を活かして日本で働く外国人を対象としています。
技人国ビザの対象となる業務は大きく3つのカテゴリーに分かれます。それぞれ求められる知識・スキルセットと従事する業務・職種が想定されています。
技人国ビザの大きな特徴は、学歴要件が設けられていることです。原則として、4年制大学卒業以上の学歴、または関連分野での10年以上の実務経験が必要とされます。これにより、一定レベル以上の専門性を持つ人材の確保が期待されているのです。
なお「技術・人文知識・国際業務とは?技人国ビザの職種一覧や許可/不許可事例も!」の記事でも技人国ビザについて詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
特定技能とは何か
特定技能は、2019年4月に新設された比較的新しい在留資格です。この制度は、深刻化する人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有する外国人を受け入れることを目的として創設されました。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの区分があります。特定技能1号は、特定産業分野において相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けで、現在16の分野が指定されています。

特定技能2号は、特定産業分野において熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けで、より高度な技能が求められる一方、家族帯同が認められるなど、1号よりも優遇された条件が設けられています。
特定技能の取得には、技能試験と日本語試験の合格が必要です。ただし、技能実習2号を良好に修了した外国人については、技能試験が免除される場合があります。
なお、「在留資格「特定技能」とは?技能実習との違いも含めてわかりやすく解説!」の記事では、特定技能制度について詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
どちらも就労ビザ(在留資格)の一種
技人国と特定技能は、どちらも外国人が日本で合法的に働くための在留資格です。
しかし、その設立背景や目的は大きく異なります。技人国は、日本経済の国際化や高度化に貢献する専門的な人材の受け入れを目的としており、長期的な定住も想定された制度設計となっています。
一方、特定技能は人手不足が深刻な特定の産業分野における労働力確保を主目的としており、より実務的・即戦力的な人材の受け入れに重点を置いています。このような背景の違いが、両制度の様々な条件面での差異に反映されています。
在留資格については「在留資格ってなに?ビザとの違いや取得方法、29種類まとめて解説!」の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

「特定技能」と「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の5つの違い
ここからは、両在留資格の違いについて5つのポイントに絞って解説していきます。
対象業務・職種の違い
技人国と特定技能では、従事できる業務内容が大きく異なります。
技人国では、前述の通り「技術」「人文知識」「国際業務」の3分野における専門的な業務が対象となります。具体的には、システムエンジニア、プログラマー、機械設計、営業、経理、財務、企画、マーケティング、通訳、翻訳などの、いわゆるホワイトカラー職種が中心となります。
技人国の重要な特徴として、単純労働や現場作業は原則として認められていません。業務内容は、大学等で習得した専門知識を活用するものでなければならず、この点が厳格に出入国在留管理庁にて審査されます。
一方、特定技能では、指定された16の産業分野における実務的な業務が対象となります。介護分野では身体介護や生活支援、建設分野では型枠施工や左官作業、農業分野では耕種農業や畜産農業などの現場業務が含まれます。これらの業務は、技人国では従事できない実作業や現場作業が多く含まれており、より実践的な技能が重視されます。
ただし、特定技能においても一定の専門性は求められており、単純な反復作業のみを行うことは想定されていません。各分野で定められた技能水準を満たし、その分野での専門的な業務に従事することが前提となっています。
在留期間の違い
在留期間についても、両制度には大きな違いがあります。
技人国の在留期間は、「5年」「3年」「1年」「3月」のいずれかが許可されます。初回申請時は通常1年または3年が許可され、更新を重ねることで5年の期間が許可されるケースが多くなります。技人国には在留期間の制限がないため、条件を満たし続ける限り、継続的に更新することが可能です。
特定技能1号の場合、在留期間は「1年」「6月」「4月」のいずれかで、通算で最大5年間の在留が認められています。この「通算5年」という制限が特定技能1号の特徴的な点で、5年を超えて日本に在留することはできません。ただし、特定技能2号に移行した場合は、この制限がなくなります。
特定技能2号に移行するには「特定技能2号評価試験」と「各分野ごとの要件(2年以上の職長・管理経験など)」を満たさなければならず、誰でも移行ができるわけではありません。
そのため、この在留期間の違いは、長期的な人材戦略を立てる上で重要な要素となります。技人国では長期的な雇用関係の構築が可能である一方、特定技能があるものの、特定技能1号では最大5年という期限を意識した人材活用計画が必要となります。
特定技能2号については「特定技能2号とは?1号・2号の違いや取得要件、試験について徹底解説!」をぜひ併せてご確認ください。
取得条件・学歴要件の違い
取得条件について、両制度には明確な違いがあります。
技人国では、原則として大学卒業以上の学歴が必要とされます。日本の大学を卒業した場合はもちろん、海外の大学を卒業した場合でも、日本の大学教育に相当する教育を受けたことが必要です。専門学校については、専門士または高度専門士の称号を付与されたもので、かつ従事しようとする業務に関連する分野を専攻した場合に限り認められます。
学歴要件の例外として、関連分野での10年以上の実務経験がある場合は、学歴要件が免除されることがあります。ただし、この実務経験は従事しようとする業務と密接に関連している必要があり、単なる就労経験では認められません。
特定技能では、学歴要件は設けられていません。代わりに、技能評価試験と日本語能力試験の合格が求められます。技能評価試験は各分野で実施される専門的な試験で、その分野で働くために必要な技能レベルを測定します。日本語試験については、国際交流基金日本語基礎テストA2または日本語能力試験N4以上の合格が必要です。
ただし、技能実習2号を良好に修了した外国人については、技能実習時と同じ分野に限り、技能評価試験が免除されます。これは、技能実習での経験が特定技能の技能レベルに相当すると認められるためです。
家族帯同の可否
家族帯同についても、両制度では大きな違いがあります。
技人国では、配偶者と子(未成年者)の帯同が認められています。家族には「家族滞在」という在留資格が付与され、技人国の外国人と一緒に日本で生活することができます。配偶者については、資格外活動許可を取得すれば、週28時間以内のアルバイトも可能です。
特定技能1号では、原則として家族帯同は認められていません。これは、特定技能1号が人手不足解消のための制度であり、労働者個人の受け入れに焦点を当てているためです。
特定技能2号では、技人国と同様に配偶者と子の帯同が認められています。ただし、前述の通り、一定の技能評価試験や分野ごとの要件を満たす必要がある点は留意が必要です。
家族帯同の可否は、外国人労働者の生活設計や長期的な定着に大きく影響する要素です。企業が優秀な外国人材を長期的に確保したい場合、家族帯同が可能な技人国や特定技能2号の方が有利となる場合があります。
永住権取得への影響
永住権取得に向けた道筋についても、両制度では違いがあります。
技人国の場合、継続的に日本に在留し、一定の条件を満たせば永住権の申請が可能です。一般的には10年間の継続在留が必要ですが、高度専門職の場合や配偶者が日本人・永住者の場合など、短縮される条件もあります。
技人国から永住権への道筋は比較的明確で、多くの外国人が実際に永住権を取得しています。これは、技人国が長期的な定住を前提とした制度設計となっているためです。
特定技能1号の場合、前述の通り通算5年の在留期間制限があるため、特定技能1号のみでは永住権の取得は困難です。ただし、特定技能1号から他の在留資格(技人国、特定技能2号など)に変更した場合は、永住権取得の可能性が開けます。
特定技能2号では、永住権取得への道筋が技人国と同様に開かれています。継続的な在留と一定の条件を満たせば、永住権の申請が可能です。
詳しくは「日本で永住者になるには?在留資格「永住権」とは何か、帰化との違いや取得方法・条件を解説!」もぜひ併せてご覧ください。
雇用企業が知るべき「技人国」「特定技能」での採用時のポイント
2つのビザについて、概要を理解していただいた上で、実際に技人国や特定技能で外国人雇用を進める際のポイントについて見ていきましょう。
技人国で外国人を雇用する場合の注意点
技人国で外国人を雇用する際は、まず業務内容と学歴・経験のマッチングが最も重要なポイントとなります。出入国在留管理庁は、従事予定の業務が申請者の学歴や経験と関連性があるかを厳格に審査します。例えば、経済学を専攻した申請者を製造現場の作業員として雇用することは認められません。
給与水準についても注意が必要です。技人国では「日本人が従事する場合と同等額以上の報酬」が求められており、同種の業務に従事する日本人と比較して著しく低い給与設定は認められません。これは、外国人労働者の待遇確保と日本人の雇用への悪影響防止を目的としています。
企業の安定性や継続性も審査対象となります。新設企業や業績が不安定な企業の場合、追加の書類提出や説明が求められることがあります。また、過去に出入国管理に関する法令に違反した企業については、より厳格な審査が行われる可能性があります。
特定技能で外国人を雇用する場合の注意点
特定技能で外国人を雇用する場合、まず自社の事業が特定技能の対象分野に該当するかを確認する必要があります。特定技能は指定された16分野でのみ認められており、該当しない分野での雇用はできません。
受入れ機関(企業)には、様々な義務が課せられています。外国人との雇用契約の適正な履行、外国人への生活オリエンテーションの実施、相談・苦情対応体制の整備、外国人と日本人との交流促進に係る支援などが含まれます。これらの義務を適切に履行するための体制整備が必要です。
特定技能では、登録支援機関に支援業務を委託することも可能です。登録支援機関は、出入国在留管理庁に登録された機関で、特定技能外国人の受入れ支援を専門的に行います。自社で支援体制を整備することが困難な場合は、登録支援機関の活用を検討することが有効です。
登録支援機関については「登録支援機関の役割とは?特定技能外国人への支援内容や選び方を徹底解説!」の記事もぜひ併せてご覧ください。
コスト・手続きの違い
両制度では、雇用にかかるコストや手続きにも違いがあります。
技人国の場合、人材紹介会社を活用した場合はエージェントへ支払う紹介手数料(年収の35%前後)、求人広告経由で採用した場合は広告掲載料が発生してきます。加えて、留学生から技人国へビザを切り替える等、在留資格(ビザ)の申請が必要になった場合は、行政書士への申請委託費用が発生することもあります。ただし、基本的には人材を雇用する際に発生する単発費用のみで、比較的日本人を雇用する場合と同じコスト構造となっています。
一方、特定技能の場合はやや複雑なコスト構造となります。まず、技人国の場合と同様に、人材が入社した際に紹介手数料と在留資格(ビザ)の申請費用が発生します。技人国の場合は、すでに技人国ビザを持っている方については、ビザ申請は発生しませんが、特定技能の場合、すでに特定技能のビザを持っている方であっても、必ず入管にビザを申請し、許可をえてからではないと入社が認められません。そのため、必ずビザ申請費用が発生すると考えておいた方が良いでしょう。
また、入社後に関しても、入管法で定められた「義務的支援」を登録支援機関へ委託する場合、毎月委託費用(月額2〜3,5万円程度が相場)を雇用した人材の人数分、支払う必要が出てきます。
手続きの複雑さについては、特定技能の方が一般的に複雑とされています。受入れ機関としての義務履行、定期的な届出、支援実施状況の記録・報告など、継続的な管理業務が多く発生します。一方、技人国では、入社時に人によってはビザ申請が必要になる一方、雇用開始後の特別な義務は相対的に少なくなります。
特定技能のコストについては「【特定技能外国人の受け入れ費用まとめ】費用相場も併せて紹介」の記事をぜひ併せてご覧ください。

特定技能から技人国への移行(在留資格変更)
特定技能から技人国へ移行が可能なケースもありますので、整理しておきましょう。
技人国への移行が可能なケース・条件
特定技能から技人国への移行は、一定の条件を満たせば可能です。
最も重要な条件は学歴要件の充足です。4年制大学卒業以上の学歴を有するか、関連分野での10年以上の実務経験が必要となります。
業務内容の適合性も重要な要素です。移行先の技人国での業務が、申請者の学歴や経験と関連性を有している必要があります。例えば、建設分野の特定技能から技人国への移行を希望する場合、建設関連の学歴を有し、かつ技術者としての業務に就く必要があります。
移行が困難なケース
学歴要件を満たさない場合は、移行が困難となります。高校卒業のみで関連分野での10年以上の実務経験もない場合は、技人国への移行は原則として認められません。
業務内容が技人国の対象範囲に該当しない場合も移行は困難です。例えば、介護分野の特定技能から技人国への移行を希望しても、介護業務は技人国の対象外であるため、同じ業務を継続する限り移行はできません。
技人国と技能実習の違いも解説
今まで、技人国と特定技能の違いを見てきましたが、よく特定技能と比較される技能実習との違いについても見ていきましょう。
技能実習制度の概要
技能実習制度は、日本で培われた技能、技術、知識を開発途上地域等へ移転することにより、当該地域等の経済発展を担う人づくりに協力することを目的とした制度です。国際協力・国際貢献が主たる目的であり、労働力確保を目的とした制度ではないという建前があります。
技能実習には「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」があり、最大5年間の在留が可能です。技能実習生は、実習実施者(企業)で技能実習計画に基づいて実習を行います。
技能実習の対象職種は現在91職種168作業が認められており、製造業、建設業、農業、漁業などの幅広い分野が含まれています。

技人国・特定技能・技能実習の3つの違い
この3つの制度は、目的、対象者、期間などが大きく異なります。
技人国は専門的・技術的分野の外国人材を長期的に受け入れる制度で、学歴要件があり、家族帯同も可能です。永住権取得への道筋も明確です。
特定技能は人手不足分野での労働力確保を目的とした制度で、技能評価試験と日本語試験の合格が要件となります。特定技能1号は最大5年の制限がありますが、特定技能2号では制限がありません。
技能実習は国際協力が目的の制度で、技能移転が主眼となります。そのため、家族の呼び寄せはできない一方で、技能実習になるための要件はほぼないため、比較的誰でも技能実習を取得することは可能と言えるでしょう。
技能実習から特定技能・技人国への移行
技能実習から特定技能への移行は、比較的スムーズに行うことができます。技能実習2号を良好に修了した場合、特定技能の技能試験が免除され、日本語試験のみの合格で特定技能1号を取得できます。ただし、技能実習で従事していた職種と特定技能の分野が対応している必要があります。
技能実習から技人国への移行は、学歴要件の充足が最大の課題となります。4年制大学卒業以上の学歴を有している技能実習生であれば移行の可能性がありますが、実際には学歴要件を満たさない技能実習生が多いのが現状です。

よくある質問(FAQ)
最後に、よく聞かれる質問をまとめて解説していきます。
どちらが取得しやすいか
取得の容易さは、申請者の状況により大きく異なります。大学卒業以上の学歴を有し、専門的な業務に従事予定の場合は技人国の方が取得しやすい場合があります。技人国は制度として確立されており、審査基準も比較的明確です。
一方、学歴要件を満たさないが、特定の分野での技能を有している場合は特定技能の方が適しています。特定技能は技能評価試験と日本語試験の合格が要件となるため、学歴に関係なく挑戦できます。
ただし、特定技能の場合は受入れ機関の体制整備が必要となるため、企業側の準備が整っていることが前提となります。また、対象分野が限定されているため、希望する業務が対象分野に含まれているかの確認も重要です。
転職時の制限の違い
転職に関する制限にも違いがあります。技人国の場合、在留資格の範囲内であれば転職は比較的自由です。ただし、転職先の業務内容が在留資格の範囲を超える場合は、在留資格変更許可申請が必要となります。また、転職後は新しい雇用先で就労資格証明書を取得することが推奨されます。
技人国の外国人は、転職に際して特別な許可は不要ですが、新しい雇用先での業務が学歴・経験と適合していることが重要です。転職先の企業も、外国人の学歴・経験を確認し、適切な業務を提供する責任があります。
特定技能の場合、同一分野内での転職は可能ですが、異なる分野への転職は転職先の技能評価試験に合格しない限りは、原則として認められません。
特定技能では、転職先の受入れ機関が出入国在留管理庁に届出を行う必要があります。この届出により、支援の継続性が確保されます。転職回数や頻度についても、出入国在留管理庁が管理しており、頻繁な転職は問題視される場合があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
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