人材の多様性が企業競争力の鍵となる現代、越境EC管理・ITツール開発を手がける株式会社ワサビでは、従業員の約20%が外国籍という国際色豊かな環境で事業を展開しています。同社はグローバルな人材活用を積極的に推進し、海外からフルリモートで勤務するエンジニアを含む多様な働き方を支援。さらに、SNS戦略を活用した採用活動にも力を入れ、わずか3ヶ月でTikTokのフォロワー数が2万人を超えるなど、ユニークな取り組みをされています。今回は株式会社ワサビの人事部山下様に、多国籍スタッフが活躍する職場づくりについてお話を伺いました。
全社員の20%が外国籍で、主に開発業務を任せている

ーーー御社の事業内容について教えてください
山下氏:
当社のメイン事業は「ワサビスイッチ」というSaaS型プロダクトで、特にリユース企業様向けに特化したサービスを提供しています。具体的には、店舗の在庫買取から在庫管理、出品、発送までを一連で管理できるシステムです。また、世界中の様々なECモールと連携し、自動出品ができる点が大きな特徴となっています。
事業理念としては「世界中のマーケットを自在につなぎ、「ワクワク」を届ける」ことを掲げており、その他にも粗大ゴミを活用する事業や、インバウンド向けのプロダクト、リユース業界のコンサル事業など、関連する新規事業も展開しています。
ーーーどのような外国籍社員が在籍されていますか?
山下氏:
従業員数が約40人のうち、約20%が外国籍のスタッフです。国籍はニュージーランド、中国、ベトナム、台湾、ミャンマーとバラエティに富んでいます。社内の公用語は日本語で統一していますが、スタッフの日本語レベルには差があります。そのため、日本語が堪能な外国籍スタッフが通訳的な役割を担い、コミュニケーションのサポートをしてくれています。彼の存在は非常に助かっています。
ーーー外国籍社員はどのような業務を担当されているのでしょうか?
山下氏:
動画編集者やサポート部門担当者がいますが、外国籍スタッフのほとんどはエンジニアとして活躍しています。全員自社の開発業務を担当しています。動画編集者は弊社のアパレル関連事業において、海外ターゲット向けのコンテンツ制作を手がけており、そのセンスやキャラクターが非常に重要な役割を果たしています。
ビザの種類は人によって様々で、技術・人文知識・国際業務の方や永住権を取得している方もいます。当社では新卒採用よりも、中途採用を中心に進めています。ただ、日本語学校を卒業したタイミングで採用し、アルバイトから正社員へとステップアップしたケースもありますので、新卒採用が0というわけではありません。
SNSの採用広報で、ほぼ無料媒体から外国人材の応募を獲得

ーーー外国人材の採用はどのように行っていますか?
山下氏:
実は当社では、ほぼ無料媒体のみで採用活動を行っています。前職のSaaS企業でエンジニア採用を担当していた際も、エージェント経由の候補者には開発歴2年以上など、手数料がかかる分失敗できないという心理が働き、採用要件を高くする傾向がありました。結果として内定に至らないケースも多かったんです。そういった理由から、当社ではエージェントに頼らない採用手法を模索しています。
現在はIndeed、自社採用サイト、エンゲージなどの無料求人サイトを活用しています。アルバイト採用ではTimeeも最近活用し始めました。今後は募集エリアによってはハローワークの活用も検討するなど、間口を広げる形で展開していく予定です。
ーーー求人応募の獲得に関して工夫されていることはありますか?
山下氏:
既存の求人票を常に最新の内容にアップデートしていくことが基本です。特にIndeedなどでは、求人票のタイトルにどんなキーワードを盛り込むかによって上位表示されるかどうかが決まり、それが応募数に直結します。地味で大変な作業ですが、こういった細かい部分をいかに丁寧にできるかが、後々の応募獲得に大きく影響を及ぼします。
ーーー動画を活用した採用広報に注力されていると聞きましたが?
山下氏:
はい、最初から採用広報目的で動画コンテンツの作成・発信をしていたわけではなく、元々は自社プロダクトの認知を高めるための取り組みでした。ただ、結果としてそれが採用にも効果を発揮し、現在は採用広報を主眼としたチームも組成し、強化している状況です。
現在では、YouTube、Instagram、X(旧Twitter)、Facebookなど基本的にはすべて網羅していますが、中でもTikTokが特に伸びており、フォロワー数が2.5万人ほどになっています。ただ、現状の課題としては、応募の動線設計がまだ甘く、DMで応募が来た後「採用ページを見てください」という案内にとどまっています。今後はLINE誘導を強化したり、中国人の方が特に利用するSNSチャネルの開拓や多言語化なども進めていく予定です。
ーーー外国籍の方を選考する際の工夫はありますか?
山下氏:
言語力の正確な把握は重要な課題です。カジュアル面談では日本語が流暢に見えても、エンジニアメンバーとの2次選考などで専門用語が出てきたり、緊張の影響か日本語力が若干落ちるというフィードバックもあります。
そのため、日本語力を正確に把握するために、カジュアル面談の段階から特定のエンジニアメンバーに同席してもらったり、面談回数を増やすなどの工夫をしています。様々な角度から会話を行い、実務で必要な日本語レベルを見極めるようにしています。
技術面では、ポートフォリオやGitHubの確認だけでは不十分なケースもあります。選考時の技術力と入社後の実際の技術レベルに乖離が出ることもあり、また日本語力が原因か、評価制度上で定められた貢献評価の部分が日本人の方が結果として良い評価になりがちな課題もあります。
こうした課題に対応するため、今後はワークサンプルテストの導入を検討しています。客観的にスキルを測れるテストを自社で開発し、その結果を選考やその後の評価に活用する予定です。また、選考時にはネガティブな側面も含めて業務の実態を正直に伝えることで、入社後のギャップを減らす努力をしています。
リモートワーク化におけるコミュニケーションには工夫が必要

ーーー入社後の教育や研修はどのように行っていますか?
山下氏:
まず人事として、社内の報告ルールなど基本的な事項については、入社時研修でしっかりと周知する機会を設けています。その後は、スキルレベルに応じて、既存の動画研修などから適切なものをピックアップし、研修担当者が教育しています。例えば、データベースに詳しくないエンジニアには、1ヶ月程度のデータベース研修を実施してから実務に入ってもらいました。
日本語教育については、現在は自学自習に任せている部分が大きいのですが、実際には自分で勉強する人とそうでない人の差が出てきてしまいます。ただ、あまりにも会社からの学習環境を手厚く整備しすぎると、ある種「ぬるま湯」な環境になってしまう懸念もあり、どこまでサポートすべきかは検討課題です。せっかく努力して成長した人材の意欲を削がないよう、バランスを取ることが重要だと考えています。
ーーー日本語のスキルアップを促す工夫はありますか?
山下氏:
具体的な施策として、今年4月から日本語能力試験N1取得者に対して月額7,000円の資格手当を支給することにしました。これは単なる手当だけでなく、日本語スキル向上へのモチベーションにもなっています。実際にN1を取得したスタッフは社内で通訳的な役割も果たしており、非常に助かっています。
この施策は当社の新しい人事評価制度の一環として導入されたもので、多様な人材がそれぞれの強みを活かしながら、より円滑にコミュニケーションを取り、チームの一員として活躍できる環境づくりを目指しています。
ーーー外国籍スタッフと日本人スタッフの協働はうまくいっていますか?
山下氏:
幸い当社では外国籍スタッフと日本人スタッフの間に大きなトラブルはなく、良好な協力関係が築けています。これには、チーム構成に配慮していることも一因で、経験者と新人、外国籍と日本人のバランスを考慮しています。入社時のスキルレベルや個人の特性も踏まえた上で、最適な配置を心がけています。
採用時には、日本文化や生活に対する理解や適応力を面接でしっかりと確認しています。日本に興味を持ったきっかけや日本での生活に対する考え方などを丁寧にヒアリングすることで、文化的なギャップによるトラブルを未然に防いでいます。
ーーーリモートワーク環境でのコミュニケーション工夫はありますか?
山下氏:
当社はハイブリッド勤務を採用しており、完全リモートのスタッフもいます。北海道から沖縄まで、さらにはニュージーランドに住むスタッフもいるため、物理的な距離を埋める工夫が必要です。
そのため、常時接続型のオンラインミーティングツールを導入し、いつでも気軽にコミュニケーションが取れる環境を整えています。ただ、ツールを導入しても新人は特に声をかけづらいという課題があります。そこで、チームミーティングを定期的に開催したり、管理職側から積極的に声をかける風土づくりを進めています。
また、年に数回は全社員が集まる機会を設け、直接交流できる場を大切にしています。さらに、チーム単位での小規模なコミュニケーションも奨励しています。
ーーー外国人雇用を検討している企業へのアドバイスをお願いします
山下氏:
新しい人材が入ることで、新しい風が吹き込まれます。外国籍に限らず、多様な人材を受け入れることで事業やビジネスが広がる可能性を感じることが多いです。「この人がいるからこそ、この事業が進む」という場面に何度も遭遇しています。
人材不足で悩まれている企業様には、躊躇せずに取り組んでいただくことをお勧めします。長い目で見れば、それが事業や会社の成長につながるはずです。一緒に頑張っていきましょう。
編集後記
今回は、越境EC管理・ITツール開発を手がける株式会社ワサビの山下様に、多国籍な人材活用の実態についてお話を伺いました。
同社では従業員の約20%が外国籍という環境の中、エンジニアを中心とした専門人材の活躍が事業成長を支えています。注目すべきは、その採用手法とコミュニケーション戦略です。エージェントに頼らない無料媒体中心の採用活動や、SNSを活用した企業認知向上など、コストを抑えながらも効果的なアプローチを実践されています。
インタビューを通じて見えてきたのは、「言語の壁」という課題への現実的な対応です。カジュアル面談と実際の業務でのコミュニケーション能力にギャップが生じることもあり、専門用語が飛び交う環境で外国籍スタッフの真の言語力を見極めることの難しさが浮き彫りになりました。
外国人材の採用と定着は、日本企業の新たな成長戦略として今後ますます重要性を増すでしょう。ワサビ社の事例から学べるのは、課題に正面から向き合い、試行錯誤を重ねながらも前進し続ける姿勢こそが、真のグローバル企業への道筋であるということかもしれません。