深刻な人手不足に直面する物流業界において、2024年に特定技能制度で外国人ドライバーの雇用が解禁されました。しかし、制度開始から1年が経過した現在でも、業界内での認知度はまだ十分とは言えない状況が続いています。
運送業界向けのHR・DXサービス事業を展開するクロスマイル株式会社では、物流業界における外国人ドライバーの採用・活用に関する実態調査を実施。調査結果では、74%近くの企業が人手不足を深刻に感じている一方で、外国人活用への取り組みはまだ限定的であることが明らかになりました。
今回は、同社で人材紹介事業「クロスワーク」とDXサービス「ロジポケ」「モビポケ」を展開する福田氏に、アンケート結果から見える物流業界における外国人雇用の現状と課題、そして今後の展望についてお話を伺いました。
ドライバー不足が原因で、事業継続が困難になる事業者も

ーーー 貴社の事業概要について教えてください
福田氏:
当社では主に二つの事業を展開しています。一つ目がHR事業で、「クロスワーク」というブランドで人材紹介事業を行っています。求職者様と企業様をマッチングするプラットフォームで、メインターゲットは物流、建設業、製造業、整備、警備、飲食など幅広い業界です。これらを当社では「ノンデスク産業」と呼んでいますが、最近では警備や小売なども新規事業として立ち上がってきています。
規模感としては、求職者様が常時約70万人ご登録いただいており、導入企業様は事業所数ベースで2万から3万の間という規模になっています。国内のノンデスク産業においては業界No.1-2を争う規模まで成長してきています。
二つ目がDX事業で、「ロジポケ」(物流業向け)と「モビポケ」(タクシー・バス業向け)という二つのブランドでソフトウェア事業を展開しています。教育、勤怠管理、労務などの紙業務のペーパーレス化と、売上、案件、コストといった経営データの見える化・活用による業務の高度化を組み合わせたDXソリューションを提供しています。
ーーー登録されている求職者の方は主に日本人の方でしょうか?
福田氏:
そうですね、ほとんどが日本人の方になっています。一部、外国人の方も、主に永住権を持たれている方などにご登録いただいています。最近では、留学ビザで来日された方がクロスワークを通じて職業紹介を希望され、特定技能での雇用につながったケースもあります。
ーーー今回の「外国人ドライバーに関する実態調査」を実施された背景を教えてください
福田氏:
当社も日々人材事業を行う中で、人手不足が深刻な状況だと感じています。仕事の需要はかなりあるものの、ドライバーさんがいないために事業継続が困難になる企業様も多くいらっしゃいます。
2019年に始まった特定技能制度は、当初物流・旅客業では受け入れができませんでしたが、昨年2024年に解禁がなされました。政府としても特定技能制度の活用推進に力を入れていますが、昨年解禁された物流・旅客業界における実際の認知度がどの程度なのか、市場を明らかにする必要があると考えました。また、お客様のペインポイントがどこにあるのかを把握したいという思いもありました。
社内でのインサイト蓄積はもちろんですが、当社だけが取り組んでも業界全体が進まないと意味がありません。業界全体として、良い意味でも悪い意味でも、競合他社様やお客様も含めて広まっていけばいいなというのが一番大きな理由です。
物流・旅客業界の約35%もの企業が、特定技能制度を「全く知らない」

ーーー調査結果では約75%の企業が人手不足を感じている根本の原因は何でしょうか?
福田氏:
まず、大きな構造として人口減少があります。パーソル総合研究所と中央大学の「労働市場の未来推計」レポートによると、2030年には国全体で625万人の労働人口が減少すると予測されています。その中で運輸郵便業は21万人、国土交通省のデータを見ると、24年問題なども含めて約29万人の不足が見込まれています。
では、なぜ足りないのかという点ですが、厚生労働省のデータを見ると明確な理由が分かります。ドライバーの有効求人倍率は2.82倍で、全産業平均の1.25倍を大きく上回っています。つまり、非常に需要があるにも関わらず、人が集まらない状況です。

その理由は労働条件にあります。年間労働時間は全産業平均の2,112時間に対し、ドライバーは2,514時間と全産業平均と比較したときに、約120%多く働かなければならない業界になっています。一方で年間所得は、全産業平均の489万円に対してドライバーは447万円と約90%しかありません。つまり、20%他の業界の労働者よりも多く働いているのに、給与は10%少ないという状況です。
結果として、他産業と比較したとき、ドライバーという職種に対する人気度はどうしても低くなってしまうのではないかと推察されます。
ーーー企業は外国人雇用の認知も進んでいない中で人手不足に対してどのように対応しているのでしょうか?

福田氏:
現状は主に日本人の方の採用で対応されています。人材の流動性をなるべく少なくするよう、当社も含めて業界全体で努力しているところです。
また、外国人採用以外の対策として、未経験者の採用も近年少しずつ増加しています。そして、教育に力を入れる企業様も多くなっています。当社のロジポケやモビポケで最も評価いただいているのは安全教育の部分で、ドライバーのスキル向上や未経験者の早期立ち上がりに動画教材を活用いただくケースが増えています。
さらに、根本的な解決策として給与の改定に取り組む企業様もいらっしゃいますが、持続的に上げ続けるのは困難なのが現状です。
ーーー外国人活用の認知度がまだ進んでいない理由は何でしょうか?
福田氏:
始まったばかりということが大きな理由だと思います。外国人採用自体は珍しいものではなく、例えば、介護、建設、製造などでは何十年も前から技能実習制度で何十万人もの方が働いています。
しかし、物流業界は長らく外国人雇用が許可されてこなかったため、業界に外国人の方がほとんどいませんでした。日々お付き合いのある同業他社でも外国人の方を見かけないと、そもそも「採用できる」ということを知らなかったり、一緒に働くイメージが湧かなかったりなどで、認知度が上がりにくいのが現実です。
ーーー認知が広まった場合 この業界での外国人活用は進んでいくとお考えですか?
福田氏:
間違いなく進んでいくと思います。先ほどお見せした数字の通り、日本人のやりくりや未経験者の教育だけでは構造的に限界があります。当社を含めて外国人活用について発信を続けていけば、いずれ必ず注目されるはずです。
実際に私自身提案現場で業界関係者様とお話しする中で、ここ半年ほどで業界としても認知度が少しずつ上がってきていると感じています。ネガティブな反応も徐々になくなってきており、他社様を含めて採用事例も出始めているので、遅かれ早かれ進んでいくことは間違いないと思います。
日本語・運転習慣・事故のリスクは適切な教育とフォローで解消していく

ーーー日本語能力に対する不安の声が多いようですが この点はハードルになりますか?
福田氏:
これは本当にお客様からのニーズとしてトップワンツーに上がる課題です。ドライバーの仕事は運転だけではなく、荷物の積み込み時のコミュニケーションや、複雑な配送ルートの理解などが必要です。
また、物流企業様も製造業や建設業などの荷主様がいて初めて成り立つサービス業ですから、顧客との信頼関係を築くためには一定程度のコミュニケーション能力が必要になります。
ーーー日本と海外における運転習慣の違いによるリスクについてはいかがでしょうか?
福田氏:
確かに重要な課題ですが、対策も講じています。当社ではバングラディシュでの人材育成・紹介会社のアドセック様と連携していますが、まず重要なのは、バングラデシュやインドネシアなどは日本と同じ左側通行・右ハンドルという点です。一定の親和性があるため、他の国籍と比較するとリスク低減につながると考えています。
また、受け入れ企業側がよく懸念する点が、交通標識の識別やクラクション文化です。現地に行くと頻繁にクラクションが鳴らされる光景をよく目にしますが、日本では基本NGになってしまいます。
そういった細かい交通ルールの文化的な差異については、アドセック様が実施する現地での日本語教育時に、国土交通省の交通安全ルールマナーのマニュアルや飲酒運転防止マニュアルなどを、やさしい日本語にして教材として活用・指導なさっています。
日本に来る前段階から日本の交通ルールやマナーを学ぶことが可能な、質の高い教育を実施できる現地パートナー企業と連携し、来日後は当社のロジポケの安全教育でフォローするという二段構えで、運転習慣に関してはリスク対応できると考えています。

ーーー事故が起きた場合の社会的インパクトを懸念する声もありますが 企業の反応はいかがですか?
福田氏:
良い意味でも悪い意味でも注目されやすいというのは事実だと思います。これは日本の文化として良くない部分もありますが、現実として存在する課題です。
しかし、そこに対しては当社のロジポケでの教育や現地での事前教育でしっかりとフォローし続けることが重要です。実際に当社のサービスを導入いただいた企業様からは、事故件数が減少しているという声をいただいており、他社様でも同様の効果が出ています。適切な教育とフォローにより、リスクは十分に軽減できると考えています。
編集後記
今回のインタビューを通じて、物流業界における外国人雇用の現状と課題が浮き彫りになりました。深刻な人手不足に直面する業界において、特定技能制度による外国人ドライバーの活用は避けて通れない選択肢となりつつあります。
福田氏が指摘する通り、認知度の向上とともに、日本語能力や運転習慣の違いといった課題に対する具体的な解決策も整いつつあります。現地での事前教育から来日後の継続的なフォローまで、包括的なサポート体制の構築が成功の鍵となりそうです。
物流業界の持続的な発展のためには、業界全体での取り組みが不可欠です。先進的な企業の事例を参考に、多様な人材が活躍できる環境整備が今後ますます重要になってくるでしょう。
外国人雇用を検討されている物流企業の皆様にとって、本記事が一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。