【外国人比率50%】外国人採用がきっかけで新規事業が|お好み焼ゆかり 山下社長

飲食業界における人材不足が深刻化する中、大阪を中心にお好み焼き専門店を展開する株式会社ゆかり。同社では、正社員の約半数を外国人材が占めています。

特徴的なのは、その採用目的が単なる人手不足対策にとどまらない点。外国人材の異なる視点を活かした新規事業の立ち上げや、インバウンド需要への対応強化など、事業戦略と密接に結びついた採用を行っています。

今回は山下社長に、外国人材の採用から育成、そして定着率を高めるための取り組みについてお話を伺いました。

日本人にはない発想から、新しい事業が生まれた

写真_山下社長
快く取材に答えていただける山下社長

ーーー まずは御社の事業概要についてお聞かせください!

山下社長:

当社は大阪、東京、横浜でお好み焼きの専門店を営んでいる会社です。現在、直営8店舗とFC1店舗の計9店舗を運営しています。コロナ禍を機に冷凍お好み焼きなどの物販販売も本格的に開始し、現在はシンガポールやアメリカへの輸出も手がけています。

店舗展開については、10店舗程度、最大でも15店舗までを目標としています。私と店長たちが密にコミュニケーションを取れる規模を維持しながら、一店舗一店舗のブランド価値を高めていくことを重視しています。

各店舗のブランド価値を高めていくと同時に、物販などへの横展開を図っていきたいと考えています。おかげさまで、お好み焼き専門店として展開する「ぼてぢゅう」「千房」といった企業と並んで、「4大お好み焼き屋」として認知していただけるようになりました。

現在は海外展開にも力を入れており、シンガポールとアメリカへの輸出に加え、タイ市場への参入も検討しています。

ーーー現在何名の外国人材が在籍していますか?

山下社長:

正社員が40名在籍しており、そのうち約半数が外国人社員です。特定技能の方が12名(内定者含む)、事務・裏方職として技術・人文知識・国際業務の在留資格で4名が在籍しています。アルバイトを含めると全従業員は約220名となります。

特定技能の方々は非常に優秀で、日本語能力も高い方が多いですね。入社当時は日本語力が弱くても、この1年で大きく成長された方も多くいます。国籍としては、ベトナム・インドネシア・ネパール・ミャンマーの4カ国の国籍者を雇用しています。

ーーー外国人材の採用を決断された背景を教えていただけますか?

山下社長:

外食産業は店舗あたりの必要人数が多く、業界的に人手不足は否めない状況でした。当社は6年前から技術・人文知識・国際業務の在留資格で外国人材の採用を始めており、大阪では比較的早い段階から取り組んでいました。

特に、最初の技術・人文知識・国際業務の受け入れ時には、私がビザ申請に必要な書類を大阪入管さんに直接連絡を取り合いながら進めていました。途中、入管さんからも当社の規模感では、例え事務職だったとしても、これ以上技術・人文知識・国際業務の受け入れは難しいと言われていましたので、他の在留資格での受け入れを検討しているタイミングで「特定技能」の存在を知り、ジンザイベースさんへご依頼することになります。

大阪・梅田の北ヤード開発や大阪万博を見据え、さらなる人材確保が必要だと判断しました。バイトの学生さんたちは万博でボランティア経験を積みたいという希望が強く、その時期の人員確保は課題となります。そのため、2年前から特定技能人材の採用に向けた準備を進め、加速させてきました。

ただ、単なる人手不足対策という考えはなく、日本人とは異なる発想を持っていることに魅力を感じ、外国人材の採用を進めています。例えば、現在実施しているお好み焼き体験教室は、最初に採用した技術・人文知識・国際業務の外国人社員と一緒に企画を作り上げました。対外国人向けにニーズの合った企画を作るには、彼女たちの視点が必要不可欠だったんです。

ーーー外国人材の受け入れに対して不安な声はなかったですか?

山下社長:

最初は「なぜ外国人なのか?」「日本人採用にもっと力を入れればいいのでは?」という声もありました。しかし、日本人採用に注力してきた結果、結局人手が不足している、今の現状につながっているんだと思います。なので、「日本人採用と外国人採用を両建てで行うことで、会社としての可能性が広がる」という説明を行い、現場の社員からも理解を得ました。

加えて、最初に雇用した技術・人文知識・国際業務の外国人社員の優秀さは先に説明したように新規事業創出の実績等により証明済みのため、一定の信頼も得られていると思います。

採用に関しては、日本人の場合、以前は新卒採用も行っていましたが、現在は中途採用とアルバイトからの社員登用を中心としています。新卒の場合、3年ほど経験を積むと他業種を見てみたいという思いが出てくるのは自然なことですが、育成担当者のショックが大きく、時には連鎖的な退職につながることもありました。

その反省から、同業他社での経験がある方や、当社でアルバイト経験のある方を中心に採用を行うようになりました。また、ありがたいことに一度他社へ移った元社員が出戻りという形で再度当社へ就職してくれるケースもあります。比較対象があることで、当社の良さを理解した上で長く働いていただけていますね。

ーーー採用時に特に気をつけていることはありますか?

山下社長:

面接では日本語能力の見極めに工夫を凝らしています。あえて業務と直接関係のない話題や例え話を用いることで、実践的な日本語コミュニケーション能力を確認しています。

やはり、事前にくるであろう質問については想定した上で、練習していると思いますので。事前に対策された質問ばかりしていても、スラスラ答えられるのは当然だと思うので、それ以外の会話力を見るためにも、こういった対応をしています。

ただし、入社時の日本語力だけで判断はしません。その方の姿勢や努力する態度も重視しています。実際、昨年入社した方の中で、入社時は日本語能力が最も低かった方が、現在では9名中トップ3に入るレベルまで上達しました。この方の成長ぶりは、周囲の日本人社員にとっても大きな刺激となっていますね。

先輩外国人が講師を務める「月一研修会」で戦力化を加速

写真_体験教室での写真
外国人社員がきっかけに立ち上がった体験教室での一コマ

ーーー新人の外国人材への教育はどのようになされていますか?

山下社長:

入社初期においては基本的にホールかキッチンからスタートし、店舗運営の基礎から学んでいただきます。特に、作業ベースの基本業務を重点的に覚えていただき、1年ほど経って慣れてきた段階で、発注業務などの難易度の高い業務に移行していきます。

教育ツールとしては、多言語のマニュアルを用意し、入社時からスムーズに業務を理解できるよう工夫しています。お互いの不安を軽減し、短期間で戦力として活躍していただくための重要な施策となっていると感じますね。

加えて、月1回のグローバル社員向けの研修も実施しています。前半は実践的なロールプレイング、後半は知識やノウハウを共有する時間に使っています。この研修については、技術・人文知識・国際業務の在留資格を持つ先輩社員が講師を務めるようにしています。幹部クラスの日本人社員も同席しますが、母国語で質問できる環境があることで、より踏み込んだ相談や学びの機会となっています。日々の業務中や現場で伝えにくいような質問・業務上の相談事項については、やはり同じ外国籍の先輩がいた方が相談しやすいと思いますので。

また、今年入社した特定技能の方々には、「来年は自分たちが教える立場になる」という意識を持ってもらうよう伝えています。教えることを意識することで、より深い学びにつながっているようです。実際、3-4ヶ月後には新しい仲間が入社するため、その時点で教える側の経験を積むことができますし、教える側としてのノウハウがどんどん溜まっていくので、一石二鳥ですね。

ーーー定着率を高めるための取り組みについても教えていただけますか?

山下社長:

最も特徴的なのは住居サポートです。今も働いてくれている姉妹の女性社員2名が、一番最初の来日時にアテンドされたのが、あまりにも劣悪な住環境で衝撃を受けました。日本人だったら、治安上絶対に住まない地域に入居してしまい、泣く泣く引っ越しを余儀なくされていました。

そういった経験から、会社としても今後を考えた時に何かしないとという思いで、関連会社を設立し住居支援を行っています。

具体的には、ゆかりの店舗がある梅田、なんば、天王寺にアクセスしやすい大阪市内の駅徒歩5分の物件を所有し、一般相場より安価な家賃で提供しています。給与を一律に上げることは難しくても、住居費を抑えることで実質的な待遇改善につながっています。

また、ユニークな取り組みとして旅行積立制度があります。任意にはなりますが、月1,000円単位で最大15,000円まで積立可能で、旅行時に全額返金される仕組みです。特に所帯持ちの方にとって、旅行の際の予算確保に役立っているようです。

定期的な待遇改善も重要な要素です。ベースアップはもちろんのこと、評価基準も作成しています。クリアすべき項目を一覧表にして取りまとめ、各個人がどの程度クリアできているのか、現場の上長からのフィードバックも反映した上で運用しています。

「辞めてしまうのでは」という不安を抱えながら接しない

ーーー外国人材特有の課題はありますか?

山下社長:

習慣の違いや、日本の税金制度の理解などで戸惑うケースはあります。特に社会保険料の仕組みについては、「手取り額がなぜこんなに減るのか」という質問が多く、年金制度の意義なども含めて丁寧に説明を行っています。

ーーー「外国人はすぐ辞めてしまうのでは?」という不安はありませんでしたか?

山下社長:

外国人スタッフの採用に関して、特に不安は感じていませんでした。というのも、これまで社員たちに本当に助けられてきましたし、コロナ禍を含めて、今日まで支えられてきました。だからこそ、私も彼らに恩返ししたいという気持ちを形にしてきたんです。

スタッフが辞めてしまうのではないかという不安を抱えながら接するということは、まったくありません。むしろ、ご縁があって当店で働いてくれている時間を大切にしたいと考えています。在籍している間に、できる限りスキルアップをしてもらい、その人の人生がより豊かになるようにサポートしたいと思っています。

もちろん、長く勤めていただくことがベストシナリオですが、それは個人の人生における選択だと考えています。私にできることは、当店で働いている期間、責任を持って彼ら一人一人にできる限りのことを返していくこと。それが経営者としての私の考えです。

ーーー外国人材採用を検討している企業へのアドバイスをお願いします

山下社長:

採用する側として不安はあると思います。しかし、日本の人口減少を考えると、外国人材の採用は避けられない道です。10年前には「インバウンド」という言葉自体なかったことを考えてください。今ではインバウンドなしに日本経済は成り立ちません。

実際、当社の店頭では既に英語対応ができない日本人スタッフが劣勢になりつつあります。5年後、10年後を見据えると、多言語対応は必須となるでしょう。エリアによっては、日本語のみの対応では支障が出るレベルのスピードで変化が進んでいます。

時代に乗り遅れる前に、今のうちからノウハウを蓄積することをお勧めします。そして何より大切なのは、不安感で接するのではなく、共に成長していけるパートナーとして向き合うことです。当社の場合、外国人材の方々が持つ多様な視点や、努力する姿勢から、むしろ日本人社員が刺激を受けています。

外国人材の採用は、単なる人手不足対策ではありません。むしろ、企業の成長戦略として捉えることで、新たな可能性が広がると確信しています。

編集後記

今回取材させていただいた株式会社ゆかり 山下社長の言葉の中で、特に印象的だったのは「不安感で接するのではなく、共に成長していけるパートナーとして向き合う」という姿勢です。

人手不足を背景に外国人採用に踏み切る企業は少なくありません。しかし、お好み焼き体験教室の立ち上げや、多言語対応による競争力強化など、外国人材の視点や強みを活かした新たな価値創造が実現されています。

また、「先輩外国人社員が講師を務める月例研修」や「駅徒歩5分圏内の住居サポート」など、独自の支援制度も注目に値します。これらは一見、コストがかかる取り組みに思えますが、結果として高い定着率や組織の活性化につながっていると感じました。

インバウンド需要の回復や、2025年の大阪万博開催を控え、外国人材の採用・定着は、より重要な経営課題となっていくでしょう。その中で、同社の取り組みをご参考にいただければと思います。

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監修者
編集
中村 大介
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に近畿大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、新規事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスを複数立上げやシステム開発を主導。海外の学校や送り出し機関との太いパイプを活用し、ベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、バングラデシュの人材、累計3000名以上の採用に携わり99.5%の達成率にて、クライアント企業の事業計画の推進に成功。このノウハウを活かし、パフォーマンスを倍加させた新しいシステムを活用し、国内在住の外国人材の就職の課題を解決すべく2021年に株式会社ジンザイベースを創業。趣味はキャンプとゴルフ。
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