外国人材の受け入れが拡大する中、企業が直面する大きな課題の一つが雇用後の生活関連支援です。住居確保、クレジットカード契約、携帯電話契約など、外国人にとって高いハードルとなるこれらの手続きを、企業がサポートすることは大きな負担となっています。
そんな中、自社でも飲食店を展開し、飲食店向け経営支援や外国人材紹介事業を手がけるG-FACTORY株式会社では、外国人材向けの総合生活支援サービスを開始。今回は同社執行役員 Human Solution事業部長の藤後氏に、サービス開始の背景と具体的な支援内容についてお話を伺いました。
外国人材が活躍するには、紹介するだけではなく「生活基盤の整備」が不可欠

ーーー貴社の事業概要について教えてください
藤後氏:
当社は「夢をカタチに!和食を世界に!」をスローガンに、飲食店の課題解決と成長支援をメインに事業を展開しています。事業は大きく二つに分かれており、経営サポート事業と飲食事業があります。
経営サポート事業では、飲食店の出店支援、多店舗展開、海外進出支援を行っています。物件獲得からリースを活用した初期費用圧縮など、飲食企業の成長に不可欠な「出店」において幅広いニーズに対応しております。そして飲食事業では、鰻業態の『名代 宇奈とと』、イタリアンの『RODEO』、焼鳥の『中目黒いぐち』『鳥カミ』など複数ブランドを自社で展開しており、これらの現場からリアルな課題やノウハウを得ています。
人材面では、外食業にとって“人”そして“人”の確保が最重要と考えており、2019年から特定技能外国人材を自社で受け入れ、実際に働いてもらうところから始めました。その経験をもとに『GF Works』という支援サービスを立ち上げ、今では全国の企業に人材の紹介から生活支援までをワンストップで提供しています。
飲食店を実際に運営しながら、その運営ノウハウをもとに、飲食店の課題解決・事業成長を力強くサポートしている点が当社の事業モデルであり強みでもあります。
ーーー外国人材向けの生活支援サービスを開始された背景を教えてください
藤後氏:
人材事業の構想は元々あり、特定技能制度がスタートするタイミングで、まずは自分たちが外国人材を正社員として雇用することを体験してから、その後、企業へご紹介する事業へと発展させようと考えていました。
途中、新型コロナウイルス感染症が落ち着きを見せた2022年後半から本格的に人材事業をスタートしました。しかし、事業を推進する中で、外国人材が成長・成功するためには、単に人材をマッチングするだけでは不十分で、生活基盤の整備が不可欠だということを実感しました。
政府主導で外国人受け入れ施策が進み、特定技能制度の法整備は進んでいます。一方で、外国人側の生活基盤へのアクセスには課題が多いのが現状です。情報の非対称性や契約上の煩雑さといった課題が解決されなければ、外国人材の生活基盤は安定しません。
安定が図られないと、外国人材は安心して働けませんし、活躍もできません。ここを安定させることで外国人材が企業で活躍することができ定着率も向上すると考え、現在の支援事業を展開しています。
ーーー具体的にはどのようなサービスを提供されているのでしょうか
藤後氏:
現在、三つのサービスを展開しています。
一つ目が「GF Mobile」という外国人向けのSIMカード提供サービス、二つ目が7月から発行を開始した「GF Card」という外国人材向けクレジットカード、そして三つ目が「GF Estate」という外国人向け住居支援サービスです。
対象となるのは、基本的にはすべての外国人で、技術・人文知識・国際業務(技人国)なども対象としています。ただし、特定技能の方が現状は多いですね。
申し込み方法について、SIMやカードについては外国人本人からの問い合わせが大半ですが企業から外国人へ紹介いただくケースも多くあります。住居支援サービスについては、企業からのお問い合わせが多数です。
対象となる業種については、「当社が飲食関連事業者だから飲食店のみ」といった制約はありません。ただ、登録支援機関であると同時に飲食店経営も行っていることから、外食事業者からのお問い合わせが多いのが実情です。
GF Mobileは、月1,250円/5GBから使用できるプランをご用意しております。当社登録支援の会員様にはさらに割引価格で提供しています。
通常のクレジットカードでは、入国後6ヶ月程度の滞在期間がないとカードの申込自体ができないとしているケースも多い中、GF Cardは入国してすぐに申し込みが可能です。入国した段階で申込書を記入していただき、審査を経て最短2週間前後でお手元に届くようなスケジュールを組んでいます。金融機関の審査があるので申込を行ったすべての方へのご提供はお約束できませんが、当社が会員を一元管理しているという前提のもと、スムーズな発行を実現しています。
GF Estateについては、企業の皆様から驚きとともに「本当にそこまでしてくれるの?」と複数の大手上場企業から高い評価をいただいているとともに、社宅制度がないまたは導入に大変な工数がかかると考える中小企業においても同様に多くのお問い合わせをいただいています。
保証人の問題・初期費用の負担・海外からの契約|外国人の住居を取り巻く障壁を全て取り除く

ーーー住居支援サービスの特徴について教えてください
藤後氏:
GF Estateは全国対応で、当社が物件の借主になり、企業に再提供する形をとっています。そのため、複数の不動産会社への問い合わせ対応や大家さんとの契約、保証人の手配といった煩雑な手続きなく、初期費用の負担はすべて当社が担います。
このサービスが実現できる理由は、当社がもともと飲食店の出店支援で物件のサブリースを手がけてきたからです。飲食店の出店支援で培った経験を住居関係に転換したのがGF Estateというサービスです。初めて取り組む分野というよりも、既存の強みを活かした自然な事業展開と言えます。
また、外国人の住居確保においては、大家さんが住居を貸してくれないというケースも確かにあります。しかし、当社は上場企業としての信用力に加え、これまで飲食店の出店支援を通じて築いてきた不動産会社との強固なネットワークを活用することで、外国人OK物件を多数取り揃えることができています。
なお、物件には家電関係や生活用品も一式準備した状態で企業に提供しています。登録支援業務でご存知の通り、入国時には生活に必要な、タオル、洗剤、シャンプー、包丁、鍋などをゼロから揃える必要がありますが、これらを基本パックとして事前に設置しており、入居者は入った瞬間から生活を開始できる状態にしています。
ーーー海外から入国される方の住居確保には課題があると聞きますが
藤後氏:
海外から入国する段階で住居の手配を済ませられる点も大きな特長です。
物件契約は当社と企業が行うのでスムーズに住居に入居ができ、入国後に企業が給与天引き等をする仕組みを採用しています。これにより、企業側のリスクも最小限に抑えられます。
社宅制度の整備がきっかけに、採用応募数の改善に繋がる

ーーー実際にサービスを利用される企業はどのような事業者が多いですか?
藤後氏:
当社が外食業支援を中心にしていた背景から、外食企業からのお問い合わせが非常に多いです。
企業規模としては、社宅制度がない中小企業から、「本当にこんなことをやってくれるのか」と驚かれる大手上場企業まで幅広くお声がけいただいています。介護系企業からのお問い合わせもあり、エリアは全国津々浦々からご相談をいただいています。
特に注目していただきたいのは、これまで社宅制度がない、全く検討していないという企業に対して、社宅制度を福利厚生として提案すると、結果として「求人応募数が増える」「社宅制度が整備されたことで採用力が上がった」という副次効果も発生していることです。一括してお任せいただいた上に応募数も増えるので、企業の皆様に驚かれるケースも多くあります。
社宅があるかないかで応募率が大きく変わってきますし、社宅がなければそもそも応募しようという動機にならない場合もあるため、社宅制度を福利厚生として導入いただくことで活路が開けるケースが多々あります。この点は非常に重要だと考えています。
私たち自身も直営店で特定技能人材を120名ほど雇用していることから、この経験により企業や人材のニーズをより詳細に理解することができ、丁寧な対応ができていると自負しています。実際に自社で外国人材を受け入れているからこそ、どこが課題でどこに困るポイントがあるのかを把握できているのです。
ーーー今後の展開についてお聞かせください
藤後氏:
生活基盤が安定すると、外国人材の不安はなくなり、業務に集中できるようになります。これが持続可能な人材活用の鍵だと考えています。「外国人材の採用は・・・」という企業もありますが、掘り下げてみると外国人が問題なのではなく、受け入れ体制の問題や初期の不安が問題だったということが多いのです。
企業が人材を活用して成長できる体制にするためには、その人の生活基盤を安定させ、活躍できる環境を作ってあげることが企業成長にもつながると考えています。引き続き現場や就労者のニーズを確認しながら、必要なサービスを提供していきたいと考えています。
生活基盤を含めた支援体制は、人材の定着と企業の成長を両立させる重要な要素です。当社が直営店運営等を通じて構築してきたこの“生活支援パッケージ”は、現場から生まれたからこそ、机上のプランではなく、実際に機能するモデルだと自負しています。
今後は、登録支援機関をはじめとした支援事業者の皆さまとも連携しながら、この仕組みを活かした協働の形が広がっていけば面白いのではないかと考えています。
編集後記
今回は、外国人材の生活基盤支援に特化したサービスを展開するG-FACTORY株式会社の藤後氏にお話を伺いました。
政府が外国人受け入れ施策を推進する一方で、実際の生活現場では住居確保、クレジットカード契約、携帯電話契約といった基本的な手続きが大きな障壁となっている現実が浮き彫りになりました。特に海外から入国直後の外国人材にとって、これらの課題は就労への不安に直結し、企業側にとっても大きな負担となっています。
インタビューを通じて印象的だったのは、同社が自社で120名の特定技能人材を雇用し、「まず自分たちが体験してから」という姿勢で事業を展開している点です。実際の現場で生じる課題を肌身で感じているからこそ、企業と外国人材双方のニーズを的確に捉えたサービスを提供できているのでしょう。
また、社宅制度の導入により求人応募数が増加するという副次効果は、外国人材の受け入れが単なるコスト負担ではなく、企業の競争力向上にも寄与することを示しています。生活基盤の安定が、真の意味での外国人材活用の第一歩となるのではないでしょうか。