外国人材の受け入れが拡大する中、企業にとって大きな課題となっているのが、採用後の日本語教育と定着支援です。特定技能や技能実習などの在留資格で来日した外国人材が、実際の職場でコミュニケーションに苦労し、結果として定着率の低下や生産性の問題に直面している企業も少なくありません。
そうした課題の解決に向け、教育事業を軸とした人材サービスを展開しているのが株式会社明光キャリアパートナーズです。同社では、自社開発のeラーニングシステム「Japany」を中心とした外国人材向け教育研修事業を展開し、日本語学習の「社会インフラ化」を目指しています。
今回は、同社で教育研修事業を担当する荷出氏に、外国人材教育の現状と課題、そして「Japany」が目指す将来像についてお話を伺いました。
教育事業のノウハウが生み出す、新しい人材紹介のかたち
ーーー貴社の事業概要について教えてください
荷出氏:
明光キャリアパートナーズは、大きく三つの事業を展開しています。一つ目が日本人の人材紹介事業、二つ目が外国籍人材紹介事業、そして三つ目が外国籍人材に向けた教育研修事業です。

私たちは「教育系の人材会社」として、単なる人材会社ではなく、教育を付加価値とした人材総合サービスを提供しています。その中で、外国人材事業では、下記四つのサービスを展開しています。
まず私が担当している教育研修事業では、日本で働く外国人の方に向けて、自社開発のeラーニング提供、オンラインや対面での日本語レッスン、外国人向けの集合研修、そして外国人向けの各種試験対策を行っています。特定技能2号の試験対策や、介護領域での国家試験対策講座など、幅広く提供しています。
二つ目は外国人材紹介で、特定技能の外国人材紹介をメインに、技術・人文知識・国際業務などのエンジニア紹介も行っています。
三つ目は、当社が登録支援機関のライセンスを保有しているため、登録支援機関として特定技能人材に向けた生活サポートや、「Japany」を使った日本語学習支援を提供しており、現在約500名の方に支援サービスを提供しています。
最後に、「明光就職」というブランドで、日本にいらっしゃる留学生、特に中国籍の留学生に向けた就職支援講座をtoC領域で提供しています。
ーーー教育研修事業では受け入れ企業側への研修サービスもありますか?
荷出氏:
はい、企業・人材双方への教育研修サービスを提供しています。
私たちは教育研修サービスの提供を通じて、外国人材の方に日本で長く定着していただくことを目的としています。そのためには、外国人材への教育研修だけでなく、受け入れる側の日本人に向けた研修も非常に重要だと考えています。
具体的には、日本人向けの受け入れ研修やダイバーシティ研修、異文化理解研修を提供しています。実施方法については、オンラインと対面の両方に対応しており、特定の業界や領域に特化せず、幅広い業種に対応しています。
ーーー明光グループが外国人材事業に参入した背景について教えてください
荷出氏:
当社は元々、明光ネットワークジャパンの一事業部として5年ほど前に発足いたしました。
明光ネットワークジャパンが明光義塾をはじめとした教育事業を主に展開している中で、現在の当社社長である小西が、元々明光ネットワークジャパンの人事部門で働いていた経験と、リクルート出身という背景を活かし、明光グループでまだ手がけていなかった人材事業の立ち上げを提案したのがきっかけです。
その際、明光グループの強みである教育事業のノウハウを活かし、人材紹介に教育を付加価値として組み合わせることで差別化を図る方針で事業をスタートしました。
eラーニング・コーチング・レッスン・業種別|各社ごとにカスタマイズする多彩な教育プログラム
ーーー自社開発のeラーニング「Japany」について詳しく教えてください
荷出氏:
「Japany」は当社で自社開発している外国人材向けの日本語学習eラーニングサービスです。日本語レベルが初級の方でも効率的に学習できるよう設計されています。企業の人事担当や教育担当の方が管理画面を通して、外国人の日々の学習進捗、eラーニング上でのテストスコア、直近のログイン日時などを全て確認できるようになっています。
最大の特徴は、学習塾を40年以上運営している「明光」グループのノウハウを詰め込んだ、すべてオリジナルの良質なコンテンツです。初学者でもわかりやすい動画コンテンツを1,200本以上豊富に用意しており、働く上で必要となる「敬語」や「専門用語」などの表現をしっかりと押さえた、企業向けに最適化された即戦力育成プログラムを提供しています。
また、スマートフォンアプリでいつでもどこでも学習できる環境を整えており、学習者自身が自分の成長を随時確認でき、自律性を促す仕組みを搭載しています。学習方法としては、当社の日本語講師による解説動画を視聴した後、確認テストを受けて学んだ内容の定着を確認するという流れで進めています。JLPTや特定技能1号・2号試験対策コンテンツ等もご用意しており、活躍できる人材育成を目的としたプログラムとなっています。
ーーー 日本語レッスンではどんなカリキュラムを受講できますか?
荷出氏:
大きく三つのカテゴリーに分かれています。
一つ目は、業種・職種別のビジネス日本語会話です。当社が日本語学校と異なる点は、実際に日本で働いていらっしゃる外国人の方に向けて「働くための日本語」を主に提供していることです。実際の業種や職種に特化したビジネス日本語会話を習得できる講座を提供しています。
二つ目は、企業様ごとの課題別カスタマイズ講座です。企業様によって抱えている課題が異なるため、カスタマイズして提供しています。例えば、ホワイトカラーの外国人の方には社内コミュニケーションや商談時に必要なビジネス日本語の会話レッスンを行ったり、稟議書や報告書作成などライティングに特化した講座を提供しています。介護で働く方には介護の現場で利用者の方や同僚の方とのやりとりがスムーズにできるよう、介護の現場に特化した会話レッスンを行ったり、介護記録作成に特化したライティングのレッスンを実施したりしています。
三つ目は、各種試験対策講座です。日本語能力試験(JLPT)、特定技能2号の試験対策、介護福祉士国家試験対策など、様々な試験対策講座のパッケージを用意しています。
レッスンの実施方法については、ZOOM等によるオンラインレッスンと、講師が企業様に訪問して対面形式で行うレッスンとともに対応しています。
ーーー他社との差別化ポイントはどこにありますか?
荷出氏:
教育研修事業全体で言えることですが、最大の強みは、企業様ごとのカスタマイズ性の高さです。
他社様の場合、ある程度決まったパッケージの中で対応することが多いですが、当社の場合は企業様のご予算や目的に合わせてカリキュラムを設計することで、顧客ごとの課題解決につながるソリューションを提供することができます。
講師についても、日本人のネイティブ講師が、やさしい日本語で分かりやすくレクチャーを行います。講師は4年制大学を卒業し、日本語教育能力検定試験の合格者、養成講座420時間修了者、または日本語教育課程修了で2年以上の指導経験を持つ者が担当しています。
各種試験対策講座については、その分野の専門性を有しており、かつその業界での経験がある講師が担当します。
ーーー「Japany」は基本的に自主学習になると思いますが 継続できるのでしょうか?
荷出氏:
確かにeラーニングという学習ツールの性質上、自主的に勉強する意欲がないと続かない、ログイン率が振るわないという問題があります。
ただし、「Japany」ではこの課題に対して様々な機能で対応しています。まず、学習者がログインした後、はじめにレベルチェックテストを受けるように設計しています。テストを受けることで、学習者の今のレベルに合ったおすすめのコースが提示されるようになっています。そのため、たくさんのコースがある中でも、学習者が迷わずに学習を始めることができるようになっています。
カリキュラムについても、単なるインプットで終了するのではなく、しっかりと試験で使えるレベルまで引き上げられるよう設計しています。例えばJLPTコースでは、わかりやすい日本語での動画コンテンツに加えて、練習問題、確認テスト、修了テストまで網羅しており、動画を見た後に練習問題や確認テストを受けることで、学んだ内容がしっかり定着できているか、すぐに確認ができるようになっています。
管理者側の機能も充実しており、学習者の受講コース名、動画の視聴時間、実力診断テストの結果などを確認できます。特にレポート機能では、複数の学習者の進捗を一覧で確認ができたり、CSVでデータを出力することも可能です。また、登録支援機関や監理団体、また外国人就労者が複数の支店にまたがっている在籍している企業の場合は、グループ単位で学習者を管理をすることもできます。
さらに、オプションとして弊社日本語講師と学習者のマンツーマンコーチングも提供しています。自主学習のモチベーション管理をより確実に行いたい、学習計画をしっかりと立てたい、きめ細かい疑問を解決する機会を用意したいという企業様のニーズにお応えし、学習の進捗管理、学習アドバイスの提示、学習計画の提示、日本語学習時に出てきた疑問点の解消など、総合的にサポートしています。
日本語eラーニングシステム「Japany」を日本社会のインフラに
ーーーどういった企業が導入を決断されるんですか?
荷出氏:
直接外国人の方を受け入れていらっしゃる企業ももちろん多いですが、最近増えてきているのは、外国人材を支援・監理している登録支援機関や監理団体、総合人材サービス企業様からのお問い合わせです。
また、海外の送り出し機関や日本語研修センターにも、eラーニングやオンライン日本語レッスンを提供しています。現地の日本語講師に向けた教育も行っており、より実践的なビジネス会話の教授法等レクチャーしています。
受け入れ企業様では、各種試験対策講座や個社毎のカスタマイズ型レッスンサービスや研修サービスを導入頂くケースが多く、一方で総合人材サービスの企業様へはeラーニングの「Japany」を導入いただくことが多いです。
ーーー海外現地での日本語教師へも教育を行なっているのですね?
荷出氏:
現地の講師の方々は、技能実習生として日本で働いた経験を活かして母国で日本語講師をされている方も多いのですが、指導できるレベルがN5やN4レベルまでで、それ以上はなかなか難しいという課題があります。
実際に、特定技能などではN4の合格や特定技能1号の試験合格まではサポートできても、実際に日本で働く際に発生する、職場の日本人とのコミュニケーションまではスムーズにできるレベルに到達していないというケースが多いです。
そこで、当社の日本語講師がオンラインで現地の講師の方々を指導することで、講義の品質を一定レベルまで引き上げることが可能になります。このような部分で当社が介在価値を発揮できると考えています。
ーーー外国人受け入れ・支援企業ではどういった課題を抱えているケースが多いのでしょうか?
荷出氏:
大きく四つの課題を抱えていらっしゃると考えています。
一つ目は、採用したもののコミュニケーションが取れないという受け入れ側の課題です。特に特定技能の外食で入った方が、店舗での日本人スタッフやお客様とのコミュニケーションに苦労するケースが多いです。
二つ目は、業務の専門用語やビジネスマナーの習得ができておらず、業務の生産性低下や定着率の低下につながっているという課題です。
三つ目は、日本語の学習機会は提供しているものの、学習者のモチベーション維持が難しく、日本語学習が続かないという課題です。
四つ目は、登録支援機関や監理団体様特有の課題で、義務的支援の一環として日本語学習機会の提供が求められているものの、限られた人数での対応が困難で、人的工数や費用的負担を避けられないという点です。
これらの課題解決のため、当社の教育研修サービスを導入いただくケースが多くなっています。
ーーー実際の導入事例を教えていただけますか?
荷出氏:
特定技能2号の試験対策講座を受講いただいた外食企業様の事例になりますが、4名中4名が受講し、全員が試験に合格することができました。特定技能2号を取得しないと、1号の在留期間である5年満了後は帰国しなければならないため、企業様としても長く活躍いただきたいと考えていたため非常に良い結果を出すことができました。
また、茨城県と県内在住外国人材に向けたeラーニングサービス提供の受託契約を結んでおり、年間約1,000名の方にeラーニングを提供しています。自治体様も外国人材の受け入れや定着支援に課題を抱えており、人口減少に伴う労働力不足や税収減への対策として、外国人材向けの教育研修や定着支援の施策を積極的に進めています。
導入企業様の中には、学習サービスを外国人材への福利厚生として打ち出されるケースもあるのですが、どちらかというと、業務時間内で毎日1時間は「Japany」を受講していただく等、半ば強制的にでも実施いただいている企業様の方が、学習の習慣づけや日本語力の伸びという観点では成果が上がっていると感じています。
ーーー今後の展望について教えてください
荷出氏:
特に教育研修事業については、自社開発の「Japany」を中心に、弊社日本語学習サービスを日本社会のインフラにしていきたいと考えています。日本の社会課題である人手不足やGDP低迷を支えるために、外国人材の採用と定着が重要な課題解決になると考えています。
「Japany」を通じて企業様への導入を進めるとともに、自治体様へのeラーニング提供も拡大し、インフラとしてしっかりと日本語学習を推し進めていきたいと思っています。
編集後記
今回は、明光義塾で培った40年の教育ノウハウを外国人材分野に展開する株式会社明光キャリアパートナーズ・荷出氏にお話を伺いました。
外国人材の受け入れが年々拡大する中、多くの企業が直面しているのが「採用後の定着」という課題です。日本語能力の不足によるコミュニケーション不全が、生産性低下や早期離職の主な要因となっているケースは決して少なくありません。
インタビューを通じて特に印象的だったのは、同社の徹底したカスタマイズへのこだわりでした。企業ごと、業種ごとに異なる課題に対して、画一的なパッケージではなく、真に必要な教育プログラムを提供する姿勢は、「教育のプロ」としての明光グループの矜持を感じます。
人手不足が深刻化する日本において、外国人材の真の戦力化は急務です。その実現には、単なる人材紹介を超えた、教育による継続的な支援が不可欠。明光キャリアパートナーズの取り組みが、持続可能な多文化共生社会の基盤構築に寄与することは間違い無いのではないでしょうか。