深刻化する飲食業界の人手不足問題。熊本県で「熊本ラーメン黒亭」を展開する有限会社黒亭では、8名のミャンマー人材が特定技能ビザで活躍しています。これは同社にとって初めての外国人採用の試みでありながら、現在まで退職者ゼロという驚異的な定着率を達成しています。今回は、取締役社長の平林社長に、外国人材の活用状況や採用戦略、定着のための取り組みについて詳しくお話を伺いました。
68年続く老舗ラーメン店|特定技能のミャンマー人材を初めて採用

ーーー貴社について簡単にご紹介いただけますでしょうか?
平林社長:
有限会社黒亭は、熊本ラーメン黒亭というラーメン店を4店舗運営している会社です。店舗運営だけでなく、ご自宅で食べられる熊本ラーメンをオリジナル商品として開発し、オンラインでも購入いただけるようにWebサイトを開設・販売しています。このオリジナル商品は、熊本県内を中心とした各種販売店でも「お土産ラーメン」として購入することもできます。
「黒亭」というお店は昭和32年の創業で、今年で68年目になります。創業者は私の祖父母の平林武良と絹子夫妻です。私は2005年頃に入社し、現在3代目として経営をさせていただいております。
ーーー現在 何名の外国人の方を雇用されていますか?
平林社長:
現在8名のミャンマー人材を雇用しています。全員がミャンマーの国籍で、全て特定技能1号のビザを持っている方々です。
当社は店舗のみならず、店舗で扱う食材を加工するセントラルキッチンもございますので、外食業の方が6名、食品製造の方が2名という形で就労しております。
ーーー特定技能人材はどのような業務に従事されていますか?
平林社長:
外食業の方はお店に入っていただいて、ラーメンやサイドメニューを作ったり、接客業務ももちろん担当していただいています。また、店舗運営の管理の部分も任せています。実際にシフトを作っている特定技能外国人もいます。一人だけでやっているわけではなく、日本人の責任者の方もいますので、一緒に業務を進めている感じです。
スタッフやアルバイトさんの教育・管理は、お店の中では最も難しい仕事なので、日本人の方でも苦労されています。ただ、徐々にステップアップしていく中で、将来的には育成・管理の部分についても任せていけたらと考えています。
製造の方は、店舗で扱う食材等をセントラルキッチンで製造する業務に従事しています。具体的には、スープやチャーシュー、麺などの製造現場に入っていただいています。
アルバイト・正社員の採用活動が厳しくなりつつある中、外国人採用へ
ーーー外国人の方を受け入れるというご決断をされた背景を教えてください
平林社長:
地元熊本で飲食店のネットワークがあり、その中で親しい方がミャンマーのスタッフを受け入れていらっしゃいました。「勤勉な方ばかりでお客様からの評判も良く、人手不足なのでおすすめですよ」というお話をいただき、当社としても試してみようということで、まずは2名の受け入れからスタートしました。
実際に働いていただいてみると、素直ですごく頑張ってくださるので、ミャンマーの方は日本人とも親和性が高いのかなと感じる瞬間も多々ありました。もちろん、人手不足という前提に加え、業務拡大しようというタイミングも重なっていました。実際に受け入れてみた結果からも、もう少しミャンマー人材の受け入れを進めようと思い、現在に至ります。
ーーー一方で 日本人の募集状況はいかがでしたか?
平林社長:
昔に比べるとアルバイトも正社員も近年は求人を出しても集まりにくくなってきており、厳しい状況だと痛感しております。
募集方法としては、アルバイトはタウンワークなどの一般求人広告媒体を使っています。また紹介制度をつくり、活用しています。最近は応募数もすごく減っている印象があります。
一方で、最近はスポットワークサービスの利用が増えていて、タイミー経由のワーカーさんの稼働が増えています。そこから新規の直接採用となる場合もあります。やはり時代が変わったのだなと感じています。
ーーーミャンマー人をメインに採用されている背景はありますか?
平林社長:
最初は、評判が良いという背景から、ミャンマー人材の採用に踏み切りました。その後は、先ほど申し上げた通り、実際に受け入れてからの親和性を考慮して、ミャンマー人採用を継続しています。
また、当社に入社してくれたミャンマー人社員も、同じ国籍の従業員が多い方が横のつながりができますし、安心感を持って長く続けていただけるのかなと考えました。
ーーー外国人材の採用は今回が初めてでしょうか?
平林社長:
はい、全くの初めてです。特定技能に限らず、外国人の方を雇用すること自体、今回が初めての経験になります。
ーーー社内では外国人雇用への不安の声などはありませんでしたか?
平林社長:
みんなやはり不安半分、期待半分というところはあったと思います。ただ、紹介の方がいらっしゃったので、「この人が言うなら良いのではないか」という気持ちもありました。
人手不足は現場のスタッフも共通の課題だったので、会社として人手不足解消に取り組んでいることを社内に向け説明し、理解を得ました。
目的意識があり積極的に学ぶ姿勢がある一方、入社前後には語学面でのギャップも
ーーー採用のルートとしては国外・国内でどちらがメインですか?
平林社長
メインは国外からです。Zoomで面接してミャンマーから直接採用しています。
国内の転職という形では、直近の1名です。ミャンマーが新規で出国が難しくなっているタイミングでもありました。数としては若干女性の方が多いのですが、男性にも入っていただきたいという事情もあり、国内での採用をリクエストさせていただきました。
ーーー実際の入社後で何かギャップはありましたか?
平林社長:
やはり日本語のスキル自体はオンラインでもある程度はわかるのですが、実際に来日してみると「意外と日本語が得意ではなかったんだな」と感じることもありました。自分が言いたいことは話せても、こちらが言っていることの意味が伝わりづらいケースもちらほらあります。
ただ、日本に慣れてくれればある程度自然と上達していくのではないかとも思います。育てるという発想で取り組んでいます。皆さん非常に熱心に学ぼうとする姿勢があり、スマートフォンの翻訳機能を使ったり、メモを取ったりと工夫しています。グループチャットなどでは、しっかりした日本語で連絡が来ることもあり、自分たちなりに勉強して成長しているのを感じます。
ーーー入社後の働きぶりや適応状況はいかがでしたか?
平林社長:
入社されてすぐは慣れない中で大変だったと思いますが、外食業の資格も持ってきていますし、飲食店でのお仕事という目的意識がある方が多かったので、何でも積極的に学ぼうとしてくれる姿勢がありました。全然すぐになじんでいただけたと思います。
ただ、日本人従業員からのフィードバックは様々で、「すごくいい」という声もあれば、「日本語が本当に厳しい」という声もあります。文化や常識の違いを指摘する意見もありますが、それは乗り越えていくべき課題だと考えています。
ーーー外国人材の受け入れに関して何かトラブルはありませんでしたか?
平林社長:
正直なことを申し上げますと、外国人材のトラブルというよりかは、受け入れに係る費用や条件の部分で、認識合わせがしっかりできていなかった部分はあったりしました。
入国までに半年等の時間がかかることもあり、面接した時と実際の入国時とでは話していた内容の記憶があいまいになることもあります。そこはしっかりと事前に話し合い、認識を統一しておくべきだったと反省していますし、ジンザイベースさんにもリクエストをお願いいたしました。
登録支援機関に丸投げせず、社内にもサポート体制を構築する
ーーー入社後の育成はどのように行われていますか?
平林社長:
基本的には、配属先のお店ごとに先輩社員がトレーナーとして付き、現場の仕事を教えています。
最初は洗い物や清掃などの簡単な業務からスタートしてもらい、徐々にステップアップしていただくようにしています。これは日本人の方と同じ育成方法です。
特に外国人専用のオリジナルな研修等は実施していないのですが、地元にはミャンマーの方のコミュニティがあり、日本語を勉強できる場所などに自分たちで通っているようです。
ーーー外国人材の定着のための取り組みについて教えてください
平林社長:
現在ミャンマー人の特定技能外国人が8名おり、長い方ですと、もうそろそろ1年半になりますが、今のところ退職者は0名となっています。
辞めずに働いてもらっている理由は様々あるかと思いますが、当社の場合、一人1部屋の寮を用意していて、家具や家電、布団など全て会社で準備するなど福利厚生の部分に力を入れていることが一つ要因として挙げられるかもしれません。
加えて、コミュニケーションについては気にかけるようにしています。頻繁に実施しているわけではないですが、社員旅行やイベントごとには積極的に参加を呼びかけ、熊本の観光に連れて行ったりもしました。お店単位で飲み会をしたり、食事会をしたりもしています。お酒を飲まない人もいますが、一緒にご飯を食べたりすることで、コミュニケーションを取っていますね。
また、ミャンマー人のスタッフ同士で、後から入ってきた技能の方に歓迎会を開いてくれたりしています。やはり、同じ国籍の先輩がいるということが、新しく入社する方々にとって大きな安心材料になっているようです。
ーーー日本人の本部スタッフの方も別途サポートを行なっているとお伺いしましたが?
平林社長:
はい、本部に内勤スタッフがおり、彼らが外国人スタッフとやり取りして書類の手続きをしたり、相談に乗ったりしています。
総務などのスタッフが兼務で対応していて、チャットでの連絡や寮の確認、何かあった時にすぐ駆けつける体制を社内で構築しています。寮から会社まで近いので、通勤の途中で立ち寄ってもらうこともできます。登録支援機関に丸投げするのではなく、しっかりと社内にもこうした総合的なサポート体制を構築することも、定着率の向上に寄与していると感じています。
ーーー外国人材のキャリアプランについてはどのようにお考えですか?
平林社長:
まず、日本人と同じように評価面談を半期に一度の頻度で実施しています。評価によってはしっかりと基本給に反映されるよう、報酬金額を調整しますし、最近では日本語のN2試験に合格した方もいるので、そういう方には特別ボーナスを出すなど、他のメンバーの方も日本語学習を頑張ってくれるよう工夫しています。
また、キャリアプラン含め、仕事における本人の希望は割と聞くようにしています。もちろん能力にもよりますが、日本人の方と同様に、店長を希望される方などいらっしゃった際は応援したいです。
ただ、特定技能の方々で注意しなければならないのは、1号の5年が経過してしまうと帰国しなければならない点です。そのため、なるべく特定技能2号を目指してほしいということは会社として伝えるようにはしています。
ーーーこれから外国人雇用を検討している飲食店経営者の方へメッセージをお願いします
平林社長:
私としては、外国人の方もご縁があって出会った以上は、働きやすい職場作りを考えることが大切だと思っています。お店でのお仕事を通して日本のことを好きになっていただけたら嬉しいなという気持ちもありますので、ぜひ働きやすい職場を作っていただきたいです。
最初は不安もあるかもしれませんが、お互いに歩み寄り、コミュニケーションを大切にすれば、必ず良い関係が築けると思います。外国人材の皆さんは本当に一生懸命働いてくれますし、その姿勢に日本人スタッフも良い刺激を受けています。
チャレンジする価値は十分にありますので、ぜひ前向きに検討されることをお勧めします。
編集後記
今回は、熊本県で「熊本ラーメン黒亭」を展開する有限会社黒亭の平林社長にお話を伺いました。
深刻化する飲食業界の人手不足を背景に、同社では8名のミャンマー人材を特定技能ビザで雇用。初めての外国人採用にもかかわらず、退職者ゼロという驚異的な定着率を実現されています。
特筆すべきは、単なる人手不足解消の手段としてではなく、「働きやすい職場作り」を大切にする姿勢です。寮の整備や生活サポート、コミュニケーションの工夫など、細やかな配慮が随所に見られました。また、同じ国籍の仲間がいることで安心感を得られるよう、意識的にミャンマー人材を中心に採用する戦略も特徴的です。
日本の人口減少が進む中、外国人材の活用は飲食業界だけでなく、多くの産業にとって避けられない課題となっています。本事例が、外国人雇用を検討している企業の皆様にとって、一助となれば幸いです。