訪日外国人の医療アクセス格差を解消する「HOTEL de DOCTOR24」|エムスリーキャリア

訪日外国人の増加に伴い、宿泊施設における外国人旅行者の急な体調不良への対応は、大きな課題となっています。言語や医療制度の違いから、ホテルのフロントスタッフは対応に苦慮し、訪日外国人も適切な医療サービスを受けられない状況が少なくありません。エムスリーキャリア株式会社が提供する「HOTEL de DOCTOR24」は、多言語対応のオンライン診療サービスによって、この課題の解決を目指す画期的なサービスです。今回は同サービスの責任者である岩井氏にお話を伺いました。

2,000名を超える医師が多言語・24時間体制で訪日外国人へオンライン診療を提供する

HOTELdeDOCTOR24のサービスフロー
HOTEL de DOCTOR24 のサービスフロー

ーーー エムスリーキャリアの事業概要についてお聞かせください

岩井氏: 

エムスリーキャリアは、医療従事者のキャリア支援と医療機関の経営サポートを軸に、日本の医療の質の向上に貢献する多角的な事業を展開しています。

1. 医療人材サービス

医師や薬剤師などの医療従事者に対し、転職・アルバイトに関する情報提供から、専門コンサルタントによる丁寧なサポートまでを提供しています。一人ひとりのキャリアプランやライフスタイルに合わせた働き方を支援することで、医療現場の活性化に寄与しています。

2. 採用・経営支援サービス

医療機関に対しては、人材採用のコンサルティングや優秀な医療人材の紹介を通じて、人手不足の解消を支援。さらに、病院経営に関するコンサルティングサービスも展開しており、効率的な運営体制の構築や質の高い医療提供に貢献しています。

3. 産業保健・健康経営サービス

一般企業向けには、産業医の紹介や、従業員の健康維持・増進を目的とした健康経営支援を実施。企業の健康課題に寄り添いながら、社会全体の健康レベル向上を目指しています。

近年では、医療現場の多様なニーズに応えるべく、新たなサービスが続々と立ち上がっています。

たとえば、医師の働き方改革に向けた支援サービスでは、医療機関が抱える業務負担の軽減や制度対応をサポートし、効率的で持続可能な勤務環境の構築を後押ししています。

また、新たに「HOTEL de DOCTOR 24」というサービスも始動しました。訪日外国人や出張者が多く宿泊するホテルと連携し、オンライン診療を中心とした医療サポートを提供することで、宿泊者の安心と利便性の向上に取り組んでいます。

さらに、自治体や企業、教育機関と連携しながら、地域医療が抱える構造的な課題に取り組む「M3 Career Lab」も展開中です。多様なステークホルダーとの協働を通じて、持続可能な医療提供体制の実現を目指しています。

ーーー HOTEL de DOCTOR24の開発背景について教えてください

岩井氏:

新規事業の構想にあたって、私たちは改めて「今、何ができるか」を検討しました。その中で着目したのが、コロナ禍以前に一度チャレンジしていた「医療ツーリズム」の領域です。アフターコロナで訪日外国人の状況が変化する中、この事業を再始動すべきかどうかを見極めるため、まずは現状を把握するための調査を開始しました。

調査の結果、観光庁のデータから「訪日外国人の約4%が滞在中に体調を崩している」という事実が判明しました。現在、月に300万人以上が日本を訪れていることを考えると、実に12万人以上が突発的な体調不良を経験している計算になります。この数字は決して小さくなく、医療現場にとっても見過ごせない課題であることが明らかになりました。

そこで、病院へのアンケート調査を実施したところ、約半数の医療機関が「外国人患者の受け入れに難しさを感じている」と回答しました。具体的な課題として、多言語対応の体制整備、対応準備の煩雑さ、そして慢性的な人材不足が挙げられました。特に、日本語を話せない患者への対応には、日本人の2〜4倍の時間とコストがかかると言われており、「現状でも日本人患者で手一杯」という病院の声も少なくありませんでした。

一方で、医師へのアンケートでは興味深い結果が得られました。多くの医師が英語での診療に対応可能であり、海外での臨床経験や留学経験を活かしたいと考えていることが分かりました。また、オンライン診療という新しい分野に挑戦したいという意欲を持つ医師も6割以上にのぼることが判明しました。

しかし、日本国内ではオンライン診療の普及が諸外国と比べて進んでいないのが現状です。最大の要因は診療報酬制度であり、オンライン診療は対面診療と比べて報酬点数が約8割に減額されるため、医療機関側はシステム導入コストに見合わず、導入をためらうケースが多いのです。その結果、オンライン診療に意欲的な医師が活躍できる場も限られてしまっています。

こうした調査結果を踏まえ、私たちは一つの方向性にたどり着きました。それは、「オンライン診療に前向きな医師たちを中心に、多言語対応で24時間体制の医療支援を提供する仕組みをつくる」ということです。

こうして、訪日外国人や出張者が多く滞在するホテルと連携し、オンラインで医療支援を提供する新サービス、「HOTEL de DOCTOR 24」が誕生しました。

ーーー HOTEL de DOCTOR24のサービス概要について教えてください

岩井氏:

HOTEL de DOCTOR 24は、訪日外国人の体調不良に対応するオンライン診療サービスです。ホテルに設置されたリーフレットやPOPなどに記載されたQRコードから、宿泊者がアクセスして診療を受ける仕組みとなっています。

利用者はQRコードから診療予約と決済を完了した後、医療通訳が同席のもと、まず看護師によるカウンセリングを受け、その後、医師によるオンライン診療へと進みます。現在、22言語に対応しており、世界中の観光客に対応できる体制を整えています。

処方が必要な場合は、宿泊施設近くの薬局と連携し、薬をスムーズに受け取れる体制を構築しています。利用者には薬局の開局時間なども案内しており、旅行中でも安心して必要な医薬品を受け取ることが可能です。

対応している主な症状は、発熱、咳、花粉症、倦怠感、腹痛、蕁麻疹、皮膚のかゆみなど、旅行中によく見られる比較的軽度なものです。日本に来てから花粉症を発症したり、食事の変化による腹痛を訴えるケースが多く、こうした症状に対し適切な診断と処方を行っています。

一方で、痙攣、意識消失、吐血、外傷など緊急性の高い症状については、オンライン診療では対応が難しいため、直接病院での受診を案内しています。

本サービスの大きな特徴は、最短1時間後から予約が可能な点です。たとえば、フライト前に体調を崩し、急ぎで診断書や処方薬が必要といった緊急性の高いニーズにも、迅速に対応できます。

また、サービスは24時間365日対応しており、特に夜間や早朝の相談が多いのが特徴です。旅行者は日中は観光を楽しみ、夜間に体調の異変を感じたり、翌日の活動に備えて早朝に受診する傾向があります。

医師の確保も進んでおり、現在、登録希望の医師は2,000人を超える規模に達しています。常時約200人の医師がシフトを登録しており、安定した診療体制を構築しています。特に、出産・育児・介護などにより病院勤務が難しくなった医師が、空き時間を活用して診療に参加するケースも多く、医師側にとっても柔軟な働き方を提供しています。

ホテル側の費用負担なく、フロント業務の負荷削減へ

削減できるフロント業務
HOTEL de DOCTOR24導入により削減できるフロント業務

ーーー サービスとしてはどこで収益を上げているのですか?

岩井氏:

HOTEL de DOCTOR24は訪日外国人向けサービスで、保険診療には対応していません。金額は一律55,000円となっております。この金額設定は、訪日外国人が負担可能な範囲で、かつ質の高い医療サービスを提供できるよう慎重に検討した結果です。

利用者には診療明細書を発行しており、海外旅行保険などへの請求に使用することができます。多くの訪日外国人は海外旅行保険に加入しているため、後日償還を受けることができる仕組みになっています。

ホテル側の導入費用やランニングコストは一切かからず、リーフレットや客室内モニターに案内を表示するだけで利用可能です。ホテル側に特別な対応をお願いするのは緊急時のみとなっています。

例えば、オンライン診療前、診療中に対面診療が緊急で必要と判断された場合は、すぐにホテルに連絡し、症状や問診内容、医師の所見などを共有することで、ホテルから病院への連絡や救急車の手配時に適切な情報を伝えることが可能です。

将来的には、各地域の医療機関とも連携を強化し、必要に応じて対面診療も円滑に受けられる体制を構築していく予定です。

ーーー ホテル側の導入メリットについて教えてください

岩井氏:

訪日外国人の体調不良対応に関しては様々な課題があります。主なものとしては、「宿泊客の言語に対応可能な病院の捜索に労力がかかる」「フロントスタッフが症状をヒアリングするものの、正確に伝えられているか不安」「外国語の診療対応が可能な病院探しが困難」といった点が挙げられています。

これまでホテルのフロントスタッフは、体調不良の外国人対応でかなりの負担を抱えていました。しかし、英語が話せるスタッフでも、「喘息」や「蕁麻疹」といった専門的な医療用語の通訳は難しく、症状を正確に理解するのが困難な状況でした。

そのような状況下で、ホテルスタッフは病院に連絡し予約を取ったり、時には通訳として同席を求められたり、診療費を代理で支払うケースもありました。特に夜間や早朝などは対応できるフロント人員は少なくなり、さらに負担が大きくなっていたのです。

救急車の手配においても緊急性や症状を正確に伝えることが困難なため、救急車が来ても症状を見て搬送を断られることもあったようです。このように、ホテルスタッフは医療の専門家ではないにもかかわらず、外国人宿泊客の健康問題に深く関わらざるを得ない状況にありました。

HOTEL de DOCTOR24を導入することで、これらの負担が大幅に軽減されます。体調不良の外国人宿泊客は直接サービスを利用できるため、ホテルスタッフが医療通訳の役割を担う必要がなくなります。また、診療前の問診情報を緊急時にホテルと共有できるため、万が一救急対応が必要になった場合でも、ホテルスタッフは医学的に正確な情報を病院に伝えることができます。

導入施設からは「従来の救急車手配や近隣病院の案内に加え、新たな選択肢を提供できるようになった」との評価をいただいています。何より、ホテル側の費用負担がなく、フロント業務の負荷削減につながるというのが大きなメリットです。2025年には訪日外国人が4,000万人を超える見込みであり、当サービスの需要はますます高まると予想しています。

これにより、ホテルスタッフは本来の業務に集中でき、宿泊客も安心して滞在を続けることができるようになります。結果的にホテルの顧客満足度向上にも繋がっており、「外国人の医療対応が整っている宿泊施設」として評価を高める効果も期待できます。

ーーー 競合他社との違いについて教えてください

岩井氏:

多言語対応のオンライン診療サービスを提供している会社はいくつかありますが、HOTEL de DOCTOR24の大きな特徴は、豊富な医療人材、22言語対応可能な医療通訳付24時間対応のオンライン診療、処方箋発行まで完結できる点です。

エムスリーグループの持つ医師ネットワークを活かし、質の高い医師を多数確保できている点も大きな強みです。このように必要な要素を全て揃えた総合的なサービスを提供できるのは、現状では他にない特徴だと考えています。

「医療対応が充実している安心・安全な観光地」|日本のブランド価値向上を目指す

HOTELdeDOCTOR24が対応できる症状
HOTEL de DOCTOR24が対応可能な症状

ーーー 実際の利用事例について教えてください

岩井氏:

具体的な利用事例をいくつかご紹介します。例えば、ニュージーランドからの宿泊客で、2時間後にフライトを控えている方がいました。兄弟が先に同じような症状で薬をもらっていたのですが、もう一人のお子様も発症したため、フライトを変更したいとのことでした。

この方は航空会社に提出する診断書が必要だったのですが、時間がなく困っていました。HOTEL de DOCTOR24を利用することで、医師がオンラインで診察し、航空会社提出用の診断書を作成して提供することができました。また、空港に急いで向かう必要があり薬局に行く時間がなかったため、医師の判断で成田空港内で購入できる市販薬を推奨するなど、状況に合わせた柔軟な対応も行っています。

また、喘息の薬が切れてしまった外国人観光客や、日本の食事に慣れず腹痛に悩む方など、様々なケースで利用されています。医師はただ診察するだけでなく、患者の状況や旅行スケジュールなども考慮しながら、最適な対応を提案しています。このようなきめ細かなサービスが、利用者からの高い評価につながっています。

ーーー ホテル・旅館における導入施設について教えてください

岩井氏:

現在、HOTEL de DOCTOR24は主に都市部のホテルを中心に導入が進んでいます。導入エリアは、インバウンド観光客が多い東京、京都、大阪などの都市部が中心ですが、今後は地方の観光地にも拡大していく予定です。現状では主に大型ホテルでの導入が多く、旅館などの導入はまだ少ない状況ですが、外国人観光客の地方分散化の流れに合わせて、様々な宿泊施設への展開を検討しています。

利用者の国籍は、特にオーストラリア、アメリカからの旅行者が目立ちます。最近ではヨーロッパからの観光客の利用も増えてきており、幅広い国籍の方々にサービスを提供しています。

ーーー 今後の展望について教えてください

岩井氏:

将来的な課題として、東京や大阪など訪日外国人が多く入国する地域に連携できる病院を増やしていきたいと考えています。緊急でなくても対面診療を希望する患者さんに適切な病院を紹介できるような医療機関連携の仕組みづくりに向けて、現在動き始めています。

特に現在開催中のEXPO 2025 大阪・関西万博を皮切りに、関西エリアでのサービス強化を進めています。万博期間中は多くの外国人観光客が訪れることが予想されるため、万全の体制を整えたいと考えています。

また、サービス提供の場を宿泊施設だけでなく、鉄道会社や航空会社、観光協会など、観光のあらゆるタッチポイントに拡大していく計画です。訪日外国人が日本のどこにいても、必要な時に医療サービスにアクセスできる環境を構築することが目標です。

患者さんの状況に真摯に向き合い、即座に適切な対応をしてくれる誠実な医師が多いことは、本サービスの大きな強みになっています。今後は月1,000名の診療が可能な体制を目指し、さらなる医師の確保を進めていく予定です。

さらに、インバウンド観光の多様化に合わせて対応言語の拡充や、より複雑な医療ニーズへの対応も検討しています。サービスの質と量の両面で拡充を図っていきます。

日本の医療の質の高さは世界的にも評価されていますので、それを訪日外国人にも広く享受してもらうことで、インバウンド観光の質の向上にも貢献していきたいと考えています。「医療対応が充実している安心・安全な観光地」としての日本のブランド価値向上にも寄与できれば幸いです。

編集後記

今回は、訪日外国人の医療対応に革新をもたらす「HOTEL de DOCTOR24」を運営するエムスリーキャリア株式会社の岩井氏にお話を伺いました。

毎月約12万人以上が突発的な体調不良に陥っている一方で、病院側の約半数が外国人受け入れに難しさを感じているという現実。この「医療アクセスのギャップ」こそが、多くの宿泊施設や訪日外国人を悩ませていた課題でした。

特に印象的だったのは、医療通訳の22言語対応と、24時間365日のサービス提供体制です。これまでホテルのフロントスタッフが抱えてきた「専門的な医療用語の通訳」や「夜間の緊急対応」という負担を、オンライン診療という形で解決している点は、まさに時代のニーズに応えたイノベーションと言えるでしょう。

訪日外国人が安心して日本を旅できる環境づくりと、医療アクセスの地域格差の是正。この二つの社会課題解決に向けた挑戦は、日本のインバウンド観光の質を高める重要な取り組みとなるでしょう。

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監修者
編集
中村 大介
1985年兵庫県神戸市生まれ。2008年に近畿大学卒業後、フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業に入社し、新規事業開発に従事。2015年、スタートアップを共同創業。取締役として外国人労働者の求人サービスを複数立上げやシステム開発を主導。2021年に株式会社ジンザイベースを創業。海外の送り出し機関を介さず、直接マッチングすることで大幅にコストを抑えた特定技能人材の紹介を実現。このシステムで日本国内外に住む外国人材と日本の企業をつなぎ、累計3000名以上のベトナム、インドネシア、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、ネパール等の人材採用に携わり、顧客企業の人手不足解決に貢献している。著書「日本人が知らない外国人労働者のひみつ(2024/12/10 白夜書房 )」
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